中国地方:ゴールデン・バス④

パイプに限らず物作りと言うのは生半な物で出来る事ではない。

一朝一夕で習熟出来る技術等たかが知れている。

長年の勘や技術が職人には必要である。


だがしかし


「ほぉ・・・」


工場で女は蒼のパイプ作成を見て感嘆の声を上げる。

若いのに熟練の腕前を持っている。


「当たり前だ、 半端者に仕事を任せる程、 耄碌はしてない」

「なるほど、 熟練工のお墨付きならば問題は無いと言う事か」

「そう言う事、 分かったら出てってくれ」

「そうだな、 それじゃあ」


バンッ!! と事務所の方から大きな音が響く。


「強盗か?」

「安心しろ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!?」


ゴールデン・バスの絶叫が響く。


「・・・何今の?」

「荒っぽい客にはオートで遠距離スタンガンテーザー銃を打ち込む

タレットを配備している」

「それは凄いな、 所で電撃の威力は?」

「暫くは起き上がれない位の威力だ」

「ふぅん、 じゃあ絶縁体人間かな」

「どういう事だ?」

「あ”お”く”ん”」


電撃でチリチリになりながらもやって来るゴールデン・バス。


「あー、 悪いけども今、 私の仕事をやって貰ってるんだ

引き取って貰えるかな?」

「た”れ”よ”あ”ん”た”!!」


ハイキックでゴールデン・バスを延髄蹴りする女。

ゴールデン・バスは倒れた。


「とりあえず縛っておくよ」

「任せた」








「はっ!?」


目を覚ましたゴールデン・バス。

彼女は縛られて工場の事務所の椅子に座らされていた。


「おはよう、 ゴールデン・バス」

「!? だ、 誰よアンタ!?」

「教えてやらない、 それよりも何でこの工場に来たんだ?」


煙草に火をつける女。


「私の蒼君が奪われたの、 だから問い質しに来た!!」

「蒼君が奪われた?」

「私の恋人なのに勝手に結婚したのよ!! 私以外の女と!!」

「・・・・・」


ふー、 と煙を吐く女。


「それの何が悪い? 婚約でもしていたのか?」

「それは!! してないけどさ!!

アイドルになる夢を後押ししたのに勝手に結婚するのは可笑しいでしょ!!」

「アンタがアイドルになる事に対して止めなかったんだから

アンタも相手の結婚を止める権利はないでしょうが」


きっぱりと断言する女。


「そんな訳無い!! 私は!!」

「とりあえず私の邪魔は止めろ、 今二人に仕事して貰ってるんだから」

「・・・・・じゃあもりちゃんに話を付けるわ」

「もりちゃん? 若い方の職人の嫁さん?」

「そうよ!!」

「・・・・・」


事務所の戸を少し開ける女。


「・・・・・っ!!」


戸の隙間から見えたのは幸せそうにもりちゃんが作った握り飯を食べる

蒼と工場長だった。


「あの幸せそーな中に割って入れる?」

「・・・・・」


出来ないだろう、 ゴールデン・バスは傲慢な気質が有るが

この光景を見て感じ淹れない程、 鈍感では無い。


「私の・・・私の居場所だったのに・・・」

「お前、 アイドルだろ? アイドルならばアンタの居場所はステージだけだ」

「・・・・・そうね、 アイドルデスゲームの舞台に立つ」

「あいどるですげーむ? アンタが?」

「そうよ」

「私に一撃でのされたのに?」

「・・・・・」


ゴールデン・バスは女を見る。

知らない・・・・顔だ、 アイドルでは無い武術家だろうか?

いずれにせよ素人に負けたのではアイドルとしての実力不足は否めない・・・


「帰るわ、 ほどいて」

「分かった、 じゃあな」


ゴールデン・バスはロープから解かれた。

そして故郷から去ったのだった。




そしてその足で山陰ミュージックに帰ったゴールデン・バス。

そのまま四に頭を下げた。


「今回、 私の実力不足を体感しました」

「お、 おう・・・」


電撃を喰らってチリチリになった髪にもう何も言えない四は

今回勝手をしたとしてゴールデン・バスを1ヶ月の謹慎処分にしたのだった。

険悪な雰囲気になっていたバックバンドとの関係性も

無様な髪型を晒した事で笑って許されたのだった。






ゴールデン・バスはその後、 アイドルデスゲームに出る事も無かった

しかしながら山陰ミュージックから排出したMessiahの死によって

事態は急変した、 ゴールデン・バスはMessiahの穴を埋める為に

スケジュールが埋められた。

メタル系バンドに舵を切りバックバンドとのパフォーマンスの強化に努めるも

バックバンドが事務所から独立し窮地に追い込まれる。

アイドル引退後は一時期プロデューサーを務めたが中々上手くいかずに

芸能界からも足を洗った。

後に彼女は故郷に帰り幼馴染が経営する企業のPRガールとして活動するのだが

それはまた別の話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る