中国地方:ゴールデン・バス②
ゴールデン・バスは電車で故郷に向かっていた。
勿論、 アイドル衣装じゃない状態で
アクセサリーも全て外して地味な格好である。
「・・・・・」
物思いに耽るゴールデン・バス。
(故郷から出る時は皆泣いてくれたな・・・
お父さん、 お母さん、 お姉ちゃん、 お兄ちゃん。
友達のまなっぴ、 かなっぺ、 もりちゃん。
そして恋人の
恋人の蒼、 彼とは子供の頃に別れてから山陰ミュージックの
養成所に入った、 互いに一人前になったら結婚しよう。
その言葉を胸に今まで頑張って来た。
「貴方と会えたこの事実はとても素晴らしい
でもこの幸運に溺れてはいけない
私と貴方は二人で一人、 愛し愛される素晴らしき黄金の時・・・」
黄金のセンチメンタルの歌詞を口ずさむゴールデン・バス。
この歌詞は自分の想いの丈を作詞家のアメリア・ハートハートに伝えて
彼女がアウトプットした物、 故にゴールデン・バスの心境に合っていた。
「なぁ、 ゴールデン・バスが事務所に喧嘩売った話聞いた?」
「何それ?」
「・・・・・」
近くの席の若者の言葉が聞こえる。
鬱陶しいと感じるゴールデン・バス、 彼女は情報を遮断しようと
携帯の電源すら落としている状態である。
「いやゴールデン・バスがアイドルデスゲームに参加表明したじゃんか
それが事務所の意味ガン無視だったんだよ」
「誰だよ、 ゴールデン・バスって」
「山陰ミュージックの歌手だよ」
「山陰ならMessiahだろ、 そっちの方が有名だ」
「有名だけどもさ、 彼女もスゲェ良いぞ
バッグバンドももう最高でさ」
「そりゃあバンドが良いだけじゃねぇの?
つーか中国ならMessiahよりも地獄崎やINAZUMAとか居るじゃねぇか
アレ? Messiahも出場するんじゃねぇの?」
「だから揉めてんだよ、 Messiahはゴールデン・バスを
目にかけてて彼女がメジャーになったのもMessiahのお陰なのに
Messiahに歯向かった形になったんだよ」
「ッ!!」
あまりの言い草に殴り飛ばそうかと思うゴールデン・バス。
自分が売れたのは自分のお陰だ、 Messiahには世話になったけども
Messiahのお陰で売れたなんて勘違い甚だしい。
物を見る目が無さ過ぎる。
「アホらしいな!!」
「は?」
「誰だよアンタ?」
唐突に話に割って入る謎の女。
「昔からずっと居座っている老害を打っ殺して新しく席を開けさせて
座るって言うのが正しいアイドルの姿だろ!?」
「昔からって・・・Messiahが売れ出したのは2年前だし」
「2年でも昔は昔!!
1秒でも古いアイドルを倒すのが新しいアイドルの務め!!」
「はぁ・・・」
「おっと!! そろそろ下りないと!!」
電車が止まると同時に降りる女。
あ、 自分もだ、 と慌てて降りるゴールデン・バス。
「やってきたぜー!!」
妙にテンションが高い女を後目にさっさと進むゴールデン・バス。
駅前に迎えが来ている筈だ。
「みかねちゃん!!」
懐かしい顔が手を振る。
「もりちゃん!! ・・・・・だけ?」
可笑しいな、 皆に帰る事は連絡した筈なのに・・・
「まなっぴとかなっぺは?」
「まなちゃんとかなちゃん? まなちゃんは地元離れて
かなちゃんは今、 キャリアウーマンでお偉いさんやってるから」
「かなっぺ偉くなったなぁ、 私達の中で一番地味だったのに」
「昔の話だよ
みかねちゃんが出て行ってから自分も頑張ろうって必死に勉強したんだよ」
「へぇ・・・そうなんだ、 もりちゃんは今は何を?」
「ふっふーん」
指輪を見せるもりちゃん。
「結婚したの!?」
「うん、 手紙出したはずだけど?」
「マンションに?」
「マンションに引っ越したの!? 寮は!?」
「寮? 養成所の寮って事? 私はもう寮は出たよ」
「え、 じゃ、 じゃあアイドルは?」
「・・・・・」
自分のアルバムCD【Memorial】を見せるゴールデン・バス。
「・・・・・」
CDジャケットとゴールデン・バスを見比べるもりちゃん。
「き、 気付かなかった・・・」
「嘘でしょ? そんなに違う?」
「メイクとか色々・・・絶対気が付かないよ
名前も違うし・・・」
「芸名よ」
「じゃあ手紙でも出せば良いのに」
「確かに今まで出して無かったわね・・・」
そう言えば手紙が来る事は有ったが疲れる事も多かったので
返事はしなかったなと思うゴールデン・バスだった。
「でも如何して帰って来たの? てっきりアイドルを諦めたかと・・・」
「馬鹿言わないで、 私は今度のアイドルデスゲームにも参加するのよ」
「えぇ!? アイドルデスゲームに!?」
「そうよ」
もりちゃんのリアクションににっこりするゴールデン・バス。
「で、 でもINAZUMAが居るじゃない!! 危ないよ!!」
「大丈夫、 返り討ちにしてやるわ
じゃあ、 まずは実家に帰ろうかな」
「そうなんだ、 じゃあ如何する? 一旦別れる?」
「如何して別れなきゃならないのよ、 送ってってよ」
「え? 自分の家も忘れたの?」
「違うわ、 車で送ってよ」
「私、 車持ってない」
「あ、 そう、 じゃあタクシー拾ってくわ」
そう言ってタクシーに乗るゴールデン・バス。
「・・・・・あ!! そうだ蒼君」
もりちゃんが言い終わる前にタクシーは去っていった。
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