心振るわせて

舞原と欄のおいかけっこ。

海苔は逃げ切れないだろう。

最初に舞原と欄がここに来て都庁防衛隊と対峙した時に即座に逃げれば

逃げ切れていた筈だが都庁防衛隊が二人を倒す事を期待して

留まっていたのが痛かった。

女子供と侮っていたのだろう。

しかしながらアイドルをただの娘と思っているのならば思い違いも良い所。

今や一大産業と言っても良い存在である。


結果として逃げるタイミングを外れてこうして追いかけられるハメになった。

だが逃げ切れないにせよ対処は可能だ。

この時代の日本は各地に核シェルターが一般的になっている。

国民の半分が既に自分の家に核シェルターを併設している。

そして公営施設には全て核シェルターが併殺されている。

民間ではまず不可能な水耕栽培や核融合炉を備えた数百年単位の人類再興まで

視野に入れた施設である。


幾らアイドルでも核シェルターは破壊出来ない。


逃げ切れないが核シェルターに避難は可能である。


「愚か!!」


欄は予め都内の施設情報を頭に入れて有る。

都庁の核シェルターは放射能漏れを防ぐ為に

出入口は一つしかない。

即ち核シェルターに入ったのならばもう逃げられない。

核シェルターから出る=死である。


「でぇい!!」


薙刀を投げる欄。

命中すれば当然死!!

が!!


「!?」


欄は眼を見開いた。

舞原が投げた薙刀を掴みそのままの勢いで走り抜け

海苔の足に薙刀を叩きつけ、 足をぶった切った!!


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!?

足!! 足があああああああああああああああああああああああああああ!!!?」


叫ぶ海苔。


「黙れ」


ばき、 と海苔の前歯を押して圧し折る。


「ひ」

「喋って良いのは一つだけ、 よばりを殺す指示を出しのはお前か?」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!

ち、 違ううううううううううううううううううううううううう!!!!!」

「・・・・・・・!!」


人々の心動かすのがアイドルならば

舞原は間違い無くアイドルである。


(これは・・・!!)


欄の脳裏に浮かぶのは彼女が7歳の頃の思い出である。





華激家が所有する保養地。

海外から隔絶された華激家の為だけの小さな町である。


「おかあさま、 だいじょうぶ?」


その保養地の邸に欄は居た。


「・・・・・」


安楽椅子に座って静かに首を振る華激 らん

彼女は20年前のアイドルデスゲームの勝利者であった。

トップアイドルの筈の彼女はここ一ヶ月

この保養地にて夫の京谷、 娘の欄と共に静養していた。

欄は最初の一週間は家族で過ごせる事を嬉しく思っていた。

しかし次第に何だか可笑しい事に気が付いた。

トップアイドルの母と俳優の父。

こんなに仕事をしていなくて良いのかと子供ながらに

可笑しい時が付き始めた。


「トップアイドルになっても星には手が届かなかった」

「・・・・・え?」


母の言葉に困惑する欄。


「トップアイドルになればこの国で一番のアイドルになれると思っていた」

「おかあさまはいちばんのあいどるじゃないの?」

「照星よばり、 年をとっても彼女の輝きは衰えない

私は彼女に憧れて、 憧れて憧れて・・・

必死に頑張って来た・・・でも分かっちゃうのよ、 私には無理だって

よばりにはどう足掻いても勝てないって・・・」


安楽椅子の肘掛を握りつぶす爛。


「ひっ!!」


のけぞる欄。


「欄、 お母さんはもう駄目みたい・・・

劣等感に押し潰されてもう私はアイドルとして再起は出来ない

これ以上何かしたら木端微塵になりかねない」

「じゃ、 じゃあアイドルをやめたらいいんじゃないの?」


欄はその時、 母が自分に向ける視線に恐怖した。

親が娘に向ける視線じゃない。


「私がアイドルを辞めたら私に何が残るのよ!!」

「お、 おかあさん・・・」


号泣しながら震えて膝から崩れ落ちる欄。


「止めろ」


京谷が止めに入る。


「欄、 お母さんは最後の仕事がある」

「さ、 さいごのしごと?」

「あぁ」


照星よばりは後に彼女に敗北宣言をした。


最後の仕事。


それは余りにも壮絶すぎる最期だった。

その姿は凄まじいの一言だった。

文字通り命を燃やした。

鮮烈で強烈に欄の脳髄を貫いた。


俗な言い方をすれば一生消える事の無いトラウマを脳味噌に刻み込まれた。





(あの時に感じた物を何故こんな小娘に感じる!?)


欄は心の中で歯噛みした。


(認めない!! こんな奴に気圧されるなんて!!)


薙刀には細い線が仕込まれている。

欄の指にはめたリングを操作する事で線が作動し薙刀は手元に戻って来る。

そうすれば海苔に対して何やら詰問している舞原を後ろから叩き殺すのは容易。


(・・・・・ダメだ!! こんな地味な誰も見ていない場所で殺してしまっては

私が彼女を上回っている事の証明にならない!!)


欄は自制した。

自分がこの娘を大衆の前で殺さなければ!!


(・・・・・今はまだ我慢よ、 ならばここは・・・)


リングを操作して薙刀を回収する欄。

彼女はさっさと都庁の外から出て行った。

あの小娘舞原味わらされた感じさせられた屈辱恐怖

もっと大舞台で晴らす、 それ故に海苔はアイツに譲って

自分は他の標的を選ぶとしよう。


「とはいえ・・・」


さっきの血の破壊流で散々足る有様。

果たして標的の生き残りは居るのだろうか?


「た、 助けてくれええええええええええええええ!!」


血の波に巻き込まれず、 看板の上に乗って助けを求めている一人の男。


「おや、 これは天も私と彼女の戦いを望んでいるという事か」


幸先が良いと笑いながら看板の上で絶叫する李の元に向かう欄だった。

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