第一回戦【邪悪六凶討伐】

日本国放送本社前広場にて

『RX-76パワードスーツ』5機

44式戦車20台、 光学迷彩無人狙撃ドローン30機。

SP1000人、 とあまりにも膨大な警備体制が敷かれていた。


「随分厳重な警備体制だなぁ・・・これが普通なんですかね?」

「知らねッ!! 俺初めて東京に来たしッ!!」


控え室で談笑する玉蘭と玉蘭の所属事務所【ともよし】社長の

団平だんぴら 友義ともよし

友義はかっぷくの良い男で大らかで豪快な性格である。

近畿地方でアイドル事務所経営と言う採算が取れない事業を

地域の為に行う様な気前の良いナイスガイでもある。

但し、 ハゲチビデブのヘビースモーカーなのが祟ってか

未だに浮ついた噂が無い。


「ッぱぁッ!! 旨いッ!!」


ともよしでは1人のマネージャーが複数のアイドルをマネージメントする体制なので

玉蘭の担当マネージャーが来ると活動に支障が出るので

友義が臨時マネージャーとして同行している。

友義的には東京観光のついでの様な感覚だろう。


「酒ですか?」


訝し気に友義を見る玉蘭。


「いやいや!! 銀座の千・・・なんて読むのか知らねぇけど

何か有名な店で買ったジュースだよッ!!

酒とか苦いから飲めねぇ!!」

「ワインかと思いましたよ」

「瓶に入ってコルク付いてるしまぁワインだと思うよな」

「所でこれからどうなるんですかね?

第一回戦の内容とか聞いてないんですけど」

「そうだなぁ・・・俺も聞いてねぇけども

まぁ大体第一回戦は甘い事が多い」

「甘い?」

「脱落しても死なないケースが多いって事だよ

昔、 最初に飛ばし過ぎて全員死亡って事が有ったからな」

「それは酷い話もあったもんですね」

「まぁその失敗も踏まえて甘めの難易度設定になっている筈だ

ってか、 その位調べておけよ」

「事前に調べる事はあまりしたくないんですよ」

「何で?」

「楽しい事が有るとしたら、 事前に知っていたらつまらないでしょ」

「うーん、 でも過酷な戦いが待ってるんだぜ?

それだったら事前に調べて対策を練っておいた方が良いと思うぞ」

「対策は『策』と言う事、 私は策は練りたくないんですよ」

「何で?」

「その策を破られて負けるかもしれないじゃないですか」

「なるほど、 建ててない策は破り様が無い、 と言う事か

お前ならではだな」

「私にもジュース頂けます?」

「おう、 ほれ」


そう言って瓶に入ったジュースを渡す友義。

玉蘭はコルクを指で掴んで引っこ抜きジュースを飲み始めた。


「ペットボトルの蓋じゃねぇのに・・・なんつー馬鹿力だよ」

「アイドルは体が資本、 でしょ?」

「だな」


控え室の外からノックが響く。


「金銀時さん、 出番です、 日本国放送本社前広場に来て下さい」

「分かったわ」


玉蘭が立ち上がり控え室から出る。


「気張れよー」


友義は笑って見送った。





日本国放送本社前広場に設置されたステージ。

入場前にアイドル達は喪章を渡された。


「喪章?」

「一体誰の・・・?」


口々に言いながらも喪章を付けるアイドル達。


「・・・・・」


欄はよばりが死んでいる事を知っているので喪章について何も言う事が無い。

しかし


(彼女、 あれほどのオーラを纏っていたかしら)


周囲のアイドル達も一様に同じ事を思っていただろう。

舞原が異様な雰囲気を放っている。

全員一切合切皆殺しにしてやる。

誰であろうがぶち殺す。

絶叫するよりも分かり易く滾っているのが分かる。


(明らかに練り上げられている・・・この女はやりますわね

しかしながらその強さ、 見せびらかすのは悪手ですわよ)


出る杭は打たれるのが世の常。

強過ぎるカードも禁止やエラッタされるのはカードゲームの常識。

塩試合は嫌われる。

強過ぎると警戒され真っ先に潰されかねないのだ。


読者諸賢が警察官ならば

棘付きの棍棒を持ったモヒカンの裸ジャケット男が

うろついていたら逮捕するだろう

しかし内ポケットにナイフを隠し持っているスーツ姿の

ビジネスマンを逮捕しようとは思わないだろう。


(まぁ目立つのは私も好きですが、 彼女は悪目立ちしてますわ

警戒されて袋叩きで終わりですわね)


そう思考すると欄は試合の事に思考を移した。



そんなこんなで会場入りするアイドル達。

しめやかなBGMが流れる中、 目に飛び込んで来たのはよばりの巨大遺影。

そして


「内閣総理大臣!?」

「な、 何で!?」


第170005代目内閣総理大臣、 杉野すぎの 草団子くさだんご

彼が遺影のステージの壇上に上がっていた。


『えー、 どうも初めまして総理大臣の杉野です

この度はアイドルデスゲーム第50回目の節目ですが・・・

皆様に話しておかねばならない事が有ります

アイドルデスゲーム第45回の優勝者にして今日の日本芸能界を

リードしていた照星よばり様がお亡くなりになられました』


マイク越しに演説をしながら涙を流す杉野。


『今回のよばり様が亡くなられたのはアイドルデスゲーム開幕セレモニーです

暗殺されると言う悲劇的な最期を迎えられました

しかし暗殺の原因の最たる物はやはり何と言っても

社会福祉団体『チェイン』を主宰する飽女史が揉め事を起こし

警備体制を混乱させた事が大きいです

故にこのアイドルデスゲーム第一回戦は

【照星よばり追悼!! 邪悪六凶討伐!!】と相成りました

ルールは単純

飽女史が主催する社会福祉団体『チェイン』及び

『チェイン』に連なる3つの団体

海外支援事業『フォレスト』代表、 コーラザ

未就学児支援機構『BAND』代表、 朝倉

就労支援機構『ぽっぷ』代表、 仁井にい

そしてこの4団体を背後で操る『社共党』党首李

東京都知事の海苔

この6人の内1人を殺した者が次の第二回戦にコマを進めます

アイドルの照星よばりを殺した報いを受けさせましょう

丁度彼等は自身の団体を引き連れてこの日本国放送本社に襲撃をかけていますので

彼等と彼等のシンパを殺し、 よばり様の追悼と相させていただきます』

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