Stage1:邪悪六凶討伐

ブレイク・ファースト

開幕セレモニーから早一週間。

遂にアイドルデスゲーム本戦第1回戦の開始日。

華激 欄は東京の自宅にて朝食を摂っていた。


「まるで気負い無く見事、 と言わざるを得ないな

それでこそトップアイドルの器よ」


欄の父、 華激 京谷きょうやは何時も通りの食事風景に賛辞を送った。

華激家の男らしく老いたとは言え美丈夫である。


「全く持ってその通りでございます、 はい」


対して共に席に着く如何にも中間管理職の様な風体の男。

彼は欄の所属する大日本芸能総省長官の金枝かなえだ 夢夫ゆめお

その名から連想される様に大日本芸能総省とは

日本国が運営する省庁の一つである国家アイドルの為の象徴。

言い換えれば国営のアイドル事務所である。

金枝はその事務所の長、 の筈なのだが

読者諸賢が薄々感じている様に威厳が無い、 それはなぜか?


答えは単純である、 彼は長官に就任して6日目だからである。

元々は前の長官である高畑たかはた 夢生ゆめお

急逝した為、 彼の直属の部下であった彼が抜擢されたのだ。


「金枝長官、 私は気になった事は調べないと気が済まない性格ですの

端的にお伺いしますが高畑前長官の急逝と

アイドルデスゲームの開始日が延期された事に対する説明をお願いします」

「・・・・・」


金枝は汗を流しながらコーヒーを飲み干した。


「これは数時間後に公表される事ですが極秘でお願いします」

「えぇ、 構いませんわ、 お父様も構いませんわね?」

「無論」

「ではお話しします・・・まずは高畑さんが

大きなイベントではよばりさんの付き人をしているのは御存じですか?」


よばりの所属事務所も大日本芸能総省であり

高畑はよばりがアイドルデスゲームに参加前後10年間

彼女のマネージャーだった。


「勿論、 照星 よばりが現芸能界の女王ならば

高畑は帝王に値する人物、 その位は当然知っている」

「!!!!! まさか!!!!!」


察して立ち上がる京谷。


「・・・・・京谷様のお察しの通り、 よばり様はお亡くなりになり

高畑様はよばり様を守り切れなかった責任を取る自決なされました」

「亡くなっ!? いや守り切れなかったという事は襲撃ですか!?」


立ち上がる欄。


「いやいやいや待て待て待て!! 何もかもが可笑しい!!

よばりさんは移動中は軍隊を引き連れて歩いていると言われる程の

大勢のSPに守られている筈!! 襲撃なんてしたらまさに銃撃戦

いや内戦の様な事態になるだろう!? それを我々が知らない筈が無い!!」


京谷が捲し立てる。


「よばり様は暗殺されました」

「それこそあり得ない!! よばりさんが比較的警備が緩くなる自宅は

最早要塞だ!! 暗殺なんて不可能だ!!」

「それが開幕セレモニーが終わった後に・・・」

「何だと!? と言う事は・・・ビッグ東京ドームタワーで!?」

「はい・・・」

「い、 いや!! だからと言って護衛が居ない筈は無いだろう!?」

「・・・・・護衛が居ない隙を突いて」

「護衛が居ない隙だと!? ・・・あぁ、 そうか・・・」


アイドルに配慮してトイレ回りには極力人を配置しておらず

護衛も配慮して傍に近付かなかった。

よばりはトイレで暗殺されたのだろう。


「・・・・・しかしよばりさんを暗殺なんて・・・一体誰が・・・」

「・・・ビッグ東京ドームタワーと言う事は

開幕セレモニーの後と言う事か?」

「えぇ、 その通りです」

「・・・・・アイドルがやった、 のではないのか?」


その言葉に息を呑む欄と金枝。


「可能性としては有るかもしれません・・・

一応の容疑者としては当時、 ビッグ東京ドームタワーに居た

アイドル、 舞原、 金銀時、 ランミ、 神田

そして彼女達のマネージャー、 そして『チェイン』代表の飽」

「他のスタッフとかは?」

「全員責任を取って処刑されました」

「妥当・・・とは言い切れませんわね、 やり過ぎじゃないのですの?」


欄が尋ねる。


「よばりさんの命と比べてもどっこいどっこいだ」

「開幕セレモニーの担当スタッフは漆社長含めて

日本国放送の最精鋭スタッフだった筈

アイドルデスゲームの運営に支障をきたすのでは無いのですか?」

「いえ、 問題有りません、 最精鋭スタッフとはいえ

日本国放送には優秀なスタッフが数多く在籍しています

調整に時間はかかりましたが何とか本日開催の運びとなりました」

「ならばいいのですが・・・

しかしそれならば私達にも一報あっても良かったのではないのですか?

よばり様の死は大事ですから情報統制は必要でしょうが・・・」

「徹底的な情報統制が必要だったのです

今朝までセキュリティクリアランスは最高機密扱いだったので

私でも話せば制裁は免れないとの御達しでした」

「御達し? 誰から?」

「上からですね」

「総理?」

「もっと上です」

「「・・・・・」」


華激親子は黙った、 総理より上の人間の話はしてはならないのだ。


「何れにせよ、 理由は分かりました

となるとますます負けられませんね」


欄は気持ちを新たにした。

よばりの死によって大日本芸能総省には

現在トップアイドルが居なくなってしまった。


「大日本芸能総省がこれからの芸能界においてイニシアチブをとる為にも

華激さんには是非トップアイドルになって頂きたい」

「事務所の皆様には悪いのですが、 私は我が家の誇りの為に

トップアイドルを目指します」

「是非ともよしなに・・・」


頭を下げて帰っていく金枝だった。


「予想以上の大事になったな・・・欄、 よばりさんの死は

正直に言うと惜しい、 しかしながらよばりさんの不在は

芸能界に置いて政治的な空白が生まれる

芸能界の派閥争いも激化するだろう

お前の兄弟姉妹達、 親戚筋、 彼等の身の振り方を考えるだろう」

「私がトップアイドルになれなければその激動に巻き込まれて

華激家も終わり、 と言う事ですか?」

「10兆歩譲ってお前の敗北が有っても華激は終わらんよ

だが大幅な弱体化を余儀なくされるかもしれん

そうなれば華激に属する者達の大半が死すだろう」

「私が死んだ後の事は知りませんよ

私は今を生きさせて頂きます」

「それでこそよ、 お前の活躍、 皆で見守っているぞ

と言いたいが身の振り方を今の内にしておかねばならぬ」

「構いませんよ

アイドルデスゲームが終わった後の祝勝会の準備でもして下さい」

「任せろ」


そんな和やかな空気の中、 親子の談笑は続いた。

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