姉妹の最期の邂逅

アイドルデスゲームの開幕セレモニーは滞りなく終わった。


「ふぅー・・・疲れたわぁ・・・」


自身の控え室で舞原がソファーにどっしりと座っていた。


「お疲れ様、 これ」

「サンキュ」


マネージャーの個個ここ なるにお茶を貰って一息吐く。

同じアイドルが一斉に外に出ると出待ちのファンでパニックになる為

一人一人、 時間をずらしてビッグ東京ドームタワーからホテルに向かっている。


「私は5番目か・・・」

「まぁ人気順だから仕方ないよ・・・」


個個は思いつめた表情をしている。


「・・・・・如何したの?」


舞原が尋ねる。


「いや、 君が死んだらと思うと・・・」

「別に私が死んでも君は別の担当アイドルを付けられるだけでしょ」

「そうだけども!! 不安じゃないのかよ!!」

「さっきのおばさんにも言ったけどトップ取れなかったら私は死んでも良いわ」

「トップじゃないけども!! 俺達やっと一端の一人前に成れたんだぜ!?

ここで充分じゃないのか!?」


個個は叫んだ。


「・・・俺達・・? 個個、 アンタ勘違いしてない?」


ずいっと個個に詰め寄る舞原。


「俺達じゃなくて私の功績!!!!!

と言い切れる訳じゃないアンタにも功績は有るけども

俺達で括られるのは気分が悪い

私とアンタの功績、 と言うのが正しいかな」

「・・・・・同じじゃないか?」

「全く違うわ、 俺達と言う事は

プロダクション・ピーチ敏腕マネージャー個個 鳴と

担当アイドル、 という意味合いでしょ

担当アイドルより前にでるマネージャーが何処にいる」

「あ・・・そうか・・・

でもよぉ!! 本来ならば予選落ちが良い所のアイドルじゃないかお前は!!」

「そうね、 と合意する事は予選で散ったあの二人・・・

名前忘れたけど、 に対する侮辱よ」

「名前忘れた方が侮辱じゃないか?」

「あいつ等は私をそっちのけで争い始めた

無視されている私の方が侮辱されてるよ」

「・・・・・ぶっちゃけると今の月収、 相当な額だろ」

「生々しいね、 まぁ会社役員位は稼いでいるよ」

「もうこれ以上要らないだろ、 金も名声も」

「”足るを知る”だっけ? プロダクション・ピーチうちの社則」

「そうさ、 満足してここらへんで止めにすれば良いじゃないか」

「だからウチは零細なんじゃない」


すっぱりと切り伏せる。

プロダクション・ピーチはアイドル事務所と言うよりは芸能事務所。

話しが出来る若い女の子を集めて芸能人に仕立て上げる

お笑い芸人、 モデル、 ガチのアイドルは舞原しか居ない。


「死ぬかもしれない、 でもトップアイドルの座は欲しい」

「トップアイドルになって如何する気だよ」

「なってから考えるわ」


手をひらひらさせてこの話は終わり、 とする舞原。

何か言おうとする個個だったが部屋がノックされた。


「・・・はい、 今行きます」


マネージャーとして応対する個個。

部屋の外に居たのはチーフADの鹿島だった。


「・・・」


露骨に嫌そうな顔をする舞原。


「あの・・・鹿島さん? 何か御用ですか?」


個個が尋ねる。


「優奈、 さんに御話が有りまして」

「そうですか、 ではどうぞ中へ」


招かれる鹿島。


「出来ればマネージャーさんには席を外して貰いたいのですが・・・」

「いえ、 一応テレビ局関係者との直接交渉は事務所NGなので

一応マネージャーが一緒でないと許されません」

「テレビ局関係者としてでは無く一個人として来ました」

「一個人で来たぁ?」


立ち上がりつかつかと近付き鹿島の頭をはたく舞原。


「個人で会いに来るとか恥を知らないのか!!」

「ちょ、 何やってんだよ舞原!!」


慌てて舞原を羽交い絞めにする個個。


「アンタねぇ!! どの面下げて私の前に顔出して来てんのよ!!」


じたばたと暴れる舞原。

タッタと足音が響いて来た。

するとピタリと鎮まる舞原。


「誰か来た、 離れて」

「ラジャ」


羽交い絞めを解く個個。

鹿島も何処かに行く。


「物音がしましたが何か有りましたか?」


やって来た警備員が尋ねる。


「いえ、 特に何もありません」

「そうですか」


舞原の言葉に去っていく警備員。


「・・・・・あの鹿島とか言うチーフADと何か有ったのか?」

「あの女は私の血縁上の姉よ」

「言い回しがおかしい、 でも姉? が居るなんて聞いた事無かったけど・・・」

「言いたく無かったよ・・・」


苦虫を噛み潰した表情になる舞原。


「・・・何が有ったか知らないけども

生きてまた会えるなんて今の世の中じゃ奇跡だよ

死に別れて当然なのに」

「・・・・・」


舞原は眼を逸らす、 個個は天涯孤独の身の上である。

既に児童養護施設の類は家庭を持っている夫婦が金を払って

子供を捨てに来る場所であり、 本当に貧しい者は道端に捨てるしかなく

寧ろ施設に連れて来る方が少数派マイノリティである。

個個も道端に捨てられていた赤子の一人だった。

プロダクション・ピーチ社長の桃葛ももくず きり

拾って来て育てて下働きにしていたのである。

彼は長年下働きで信頼を獲得して舞原のマネージャーになったのだった。

そして舞原も彼と同様に天涯孤独の身の上、 の筈であった。


「悪いけどあの女の事を喋るのは精神衛生上に宜しくない

アイドルデスゲームも始まるし、 あまり心を乱したくはない

終わってから聞きなさい」


立ち上がる舞原。


「何処に行くんだ?」

「・・・・・」


嫌そうにする舞原。

義務として後に続く個個。

向かう先はトイレである。



今はまだ彼女達は鹿島と生きて会う事が二度とない事を知らない。



響く舞原の悲鳴。

そして駆けつける警備員達。

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