16の視線

武装した警備員達に囲まれて一人の女性が現れた。

歳の頃は40代であろうか?

あまりメイクや髪の毛には頓着していない様な風貌である。


「・・・・・」


皆が怪訝そうに見る。


「女性の社会福祉団体『チェイン』を主宰する飽 夢子さんです!!」


ラルピは周囲の反応をよそに司会を続けていた。


「ではどうぞ!!」


夢子にマイクが近づけられる。


「・・・・・どうぞとは?」


夢子が尋ねる。


「貴女はアイドルデスゲームに不満を持っておりこんな事を止めろと言う

その理由について述べて下さい」

「そもそもアイドルの職業事態が少女からの搾取と考えています」

「失礼、 割って入りますが質問宜しいでしょうか」


矢田が割って入る。


「・・・どうぞ」

「まず、 貴女は誰ですか?」

「若年弱者女性社会福祉団体『チェイン』を主宰する飽 夢子と言う物です」

「御職業は?」

「はい?」

「御職業は?」

「若年弱者女性社会福祉団体『チェイン』を主宰しています」

「それは職業ですか?」

「・・・・・活動家をしています」

「では前職は何を」

「ちょっと待って」


質問攻めを夢子は止めた。


「何ですかこの質問は?」

「私は貴女が何なのか全く理解出来ないのですよ

活動家と言う職業は実態が掴めない、 国家資格も必要無いですからね

私達もアイドルの前はアイドル候補生でした、 が活動家と言うのは

ある日唐突に名乗っても良い訳じゃないですか

ならば活動家になる前の職業で貴女を把握したいと言うのは

当然の事じゃないですか?」

「私は冥々学園卒業後に活動家になりました、 前職なんて有りません」

「有りません? 社会で働いた事も無い人が社会批判ですか?」


くっくと嗤う矢田。


「・・・・・貴女は何方の大学を出たのですか?

散々煽っておいたのならばさぞ優秀な「あはははははははははは!!!!!」


夢子の返しに爆笑する玉蘭。


「・・・・・何が可笑しい?」

「いやぁー、 すまんなぁー、 面白くてなぁー

学歴マウントとかくくく・・・」

「金銀寺さんが笑いたくなることも分かりますよ」


ふっ、 と笑う矢田。


「私達はアイドルですよ? 学校とは私達にとって通う物じゃない

建てる物なんですよ、 それ位は稼いでいますからね」

「学校にはもっと大切な事が有る!!」


夢子は叫ぶ。


「例えば?」

「例えば・・・友達とか!!」

「私にも居ますよ」

「嘘を吐かないで!! 生き目を抜くアイドル業界に友達なんて出来る訳が無い!!」

「・・・・・ではその友達と殴り合った経験は?」

「・・・・・はい?」


質問に困惑する夢子。


「殴り合いはした事が無いけども喧嘩鳴らした事がある」

「それは友達といえますか?

殴り合いも無しで友情が形成されるとは思えません」

「・・・如何やら貴女とは考え方が違うみたいね

でも貴女達は搾取されているのよ」

「搾取ですか? 何を搾取されているかは知りませんが

私はちゃんとした給料を頂いているのです

ちゃんとした雇用契約に基づいております」

「いや女性の性的搾取は

貴女達アイドルと言う職業が居ると言う実例があるからいけない」

「? 何を言っているのか理解しかねますね」


首を傾げる矢田。


「女性とはこうあるべき、 と言う形に女性が嵌められちゃうのよ

アイドルと言う形、 美しく有らねばならぬという形

そういう形から女性は解放されなければならない」

「どうぞ」

「どうぞ?」

「解放されたいなら気にしなければ良いのでは無いのですか?」

「ばっかだなぁ!!」


カートゥーンが前に出て割って入る。


「矢田よ、 アンタはこのおばさんが言いたい事を理解出来てねぇよ」

「貴女は理解できていると?」

「このおばさんはただいちゃもんを付けてるだけだよ!!」

「何ですって!!」


夢子が立ち上がる。


「女性がこうあるべきとか私達にまっっっっったく関係無い話じゃないか!!」

「・・・・・は?」


全員が止まる。


「・・・・・私達も一応は女性なんだが」

「お前は馬鹿か!? アイドルはアイドルだぜ!?

生物学的な分類とかあるかもしれねぇけどもアイドルはアイドルだぜ!?」

「・・・・・」


少し考えこむ矢田。


「まぁ言いたい事は分かりました

一般女性とアイドルは違うと言いたいんですね?」

「その通り!! 女とアイドルは三輪車とトラック位の違いがある!!

全く別物の事を言い始めるなよ!! 困る!!」

「・・・いや!! そうじゃない!!

貴女には女性らしさを押し付けられる彼女達の嘆きが聞こえないんですか!?」


夢子が反論する。


「だから私達にまっっっっったく関係無い話だ

アンタだって今のユーラシアで何人飢えて死んでいるかとか知らんだろ?

それと同じ話、 私には一切関係ない戯言、 ゴミ、 廃油」

「それとは!!」

「あー、 はいはい、 それ以上はユーラシアの人間全員を

飢えと紛争から救ってからにして貰おうか」

「何を言っているの!?」

「全く無関係な奴を救えと私達に強要するのならばまずそこから

無関係な奴等全員を救ってからにしなさい」

「それにはまず弱者女性を」

「夢子さん、 カートゥーンさん、 一旦落ち着いて下さい」


間に入る矢田。


「夢子さん、 一般社会と私達には一切関りが無いので

そう言う社会活動ならば他所でやるのが賢明だと思います」

「・・・・・」


夢子は抑えながらも口を開いた。

アイドル達はこの論争に対して一切動じていない。

と言うよりも此方に目線を向けているが無関心の様に振舞っている。

夢子は自分が正義だと考え行動している視野狭窄な部分が有るが

こうまで無関心だと社会に対して訴えかけて行っても

このアイドル達には通じないと判断した。


「貴女達は・・・」


それ故に彼女は最大のカードを切った。

生物の取っての最大問題。


「貴女達はこれから殺し合いをさせられるんですよ!?

トップアイドルと言う下らない物の為に!!

貴女達、 いや予選を含めばもっと大勢の女性が殺し合いをさせられて

競わされている!! この現状を貴女達は如何考えているのですか!?

可笑しいと思わないのですか!?」

「「「「「「「「いえ、 全く」」」」」」」」


全員がシンクロして答えた。


「何を言っているのですか!? 殺し合いをさせられるのですよ!?

分かっているんですか!?」

「あー、 ちょっと良いかな」


よばりが制止する。


「皆で一言ずつ、 この事に関して返事していこうか

じゃあ順位が大きい順に神田ちゃんから」

「はい」


マイクを渡された神田が前に出る。


「私がアイドルになる事は神の御意思です

ならば私がトップアイドルになり、 他の方々が死に絶えるのも神の御意思

そこに疑問を挟む余地があるのでしょうか?」


神田からマイクを渡されたランミが前に出る。


「ンー、 アマリムツカシイコトイウノハワカンナイネ!!

ダカラカンガエナイネ!! カツコトダケカンガエレバイイネ!!」


ランミが投げたマイクを受取る玉蘭。


「トップアイドルは金になる

学もコネも才能も無い女がビッグマネーを手に入れようと思ったら

アイドル以外にない!! アイドルこそが女性の社会進出その物!!

負けて死んだら何も手に入らなず勝った奴が総取りなのは自然そのものよ!!」


玉蘭からマイクを渡される舞原。


「アイドルを目指すって事はトップアイドルを目指すって事だから

トップアイドルを目指しています、 トップアイドルになれないなら

死んでも問題無いでしょう」


舞原からマイクを引っ手繰るカートゥーン。


「最強なのはこの私ィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!

雑魚に構っている暇なし!!」


カートゥーンが投げたマイクを受取り損ねて追いかけ回して拾うモフ。


「負けた心配は負けてからするが良い!!」


モフからマイクを手渡される矢田。


「皆の為にトップアイドルになります」


矢田からマイクを受取る欄。


「えー、 皆さん意気込みとか考えを述べておりますので

私からアイドルデスゲームの意義を述べたいと思います

まずこのアイドルデスゲームには国家予算の数十%とかその位の

大金がかけられております、 それを今更中止には出来ませんよね?

先程言った命を失う事のリスクですが

アイドルデスゲームは10年に1度開催で死者は100人にも満たないでしょう

そして経済効果は出資金額の数倍、 アイドルデスゲームで得られる収益を

頼りに生きている方々もいらっしゃいます

そして今や日本の平和憲法も既に消え去り国境では防衛軍が

日々百人単位で戦死者を出して頑張っております

それに比べてみれば些細な犠牲で多くの実りを手に入れたとは思いませんか?」

「!!」


夢子は戦慄した。

アイドル達の言葉にではない。

いやアイドルの言葉も恐ろしく感じたが

アイドル達の目である。

彼女達の目がまさに自分を殺さんばかりの鋭さを持っていた。

死の覚悟がキマっている者達の目である。

自分では何も言う事は出来ない!!

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