ケース8 じんめんそう⑲
急ごしらえに片付けられた部屋を見渡し、卜部は目を細める。
かなめはそんな卜部を不安げに眺めていた。
家具を叩き壊されませんように……
かなめの不安をよそに、卜部はまっすぐベランダへと続く掃き出し窓に向かった。
卜部はカフェオレの染みの前でピタリと足を止める。
まさか窓ガラスを……!?
そう思って窓を見ると同時に、かなめはベランダから回収し忘れた下着を発見して息を呑む。
かなめはさり気なく窓の側に立ち卜部の視界を遮った。
卜部は「なんだ?」と言わんばかりに顔を顰めたが、かなめは何食わぬ顔を装ってそこを退こうとしない。
訝しがりながらも卜部は口を開いた。
「ここで怪異に遭遇したのか?」
「あっ……はい……! ホーリーとメールをしてたんですけど……文字化けのメールが来て……そこにもしって文字が紛れ込んでたんです……櫻木舞子の口癖の……」
「ふん……ならなぜわざわざ窓際に来た? ソファに座ってコーヒーを飲んでたんじゃないのか?」
まるで見ていたかのような卜部の口ぶりにかなめは目を見開いた。
「そう言えば……窓の外で音がして……」
そこまで言ってかなめはしまったと後悔する。
案の定卜部はベランダに出ようと向きを変えた。
「音がしたのはどのあたりだ?」
「いいです!」
「何だと?」
ピクリと卜部の眉が動く。
「いいんです! ベランダは気のせいなので大丈夫です!!」
腕を大きく開いてかなめは卜部の視界を遮る。
「わけのわからんことを抜かすな!! お前に判断出来るなら俺が来る意味がないだろうが!!」
「ダメなものはダメなんです!!」
「ええい……!! そこを退け!!」
卜部はかなめを脇へ押しやりベランダの窓を開けた。
すると風に揺れるかなめの下着が卜部を出迎える。
「……」
卜部は何も言わずに窓を閉めた。
赤面したかなめが顔を覆う。
「ベランダでした音の種類は……?」
「落下音です……」
「……」
再び卜部は無言になり、床に落ちたままの携帯を拾い上げた。
「持っておけ。障りは無い」
卜部はそう言って玄関へ向かった。
「も、もういいんですか……?」
かなめはキャビネットの上に置いた雅子ちゃんに背中を向けないように横向きに歩きながら卜部に尋ねた。
卜部はドアノブを掴んで固まると、振り向かずに口を開く。
「ああ。生霊の痕跡は無い。向こうの思う壺のようで癪に障るが……こっちから出向くぞ……高額な依頼料をふんだくってやる……!! 行くぞかめ!! 屋敷に案内しろ……!!」
「はい……!! かなめです!!」
この時のかなめはまだ知らなかった。
これから自身に降りかかる恐ろしい出来事と、卜部ですら嫌厭した櫻木家の闇の深さを。
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