ケース7 泉谷張の報告書  

 

「それで? 小林さん……あなた、どうしてあそこの団地に居座ってたの?」

 

「娘が帰って来た時に……淋しくないようにと思い……」

 

「でも娘さん、すでに亡くなってるね? 何で帰ってくると思ったの? 過去にあそこであった新興宗教集団自殺事件……」

 


「娘は……!!」

 

 小林が勢いよく立ち上がり、パイプ椅子が倒れる。


 書記の警察官がパイプ椅子をもとに戻す。

 

「落ち着いて話してね。小林さん……最初にもお話した通り、わたしゃ……あなたを逮捕するために調書を取ってるわけじゃないんだよ?」

 

 小林が小さく頷き、パイプ椅子に腰掛け直す。

 

「新興宗教集団自殺事件……あれね。まだ謎が残ってるんだよ。教祖の女は自殺した。でもどうにも引っかかる……」

 

 泉谷は右手で自身の左手を揉みながらゆっくり口を開いた。

 

「もう一人いたはずなんだ。遺族の方々は皆証言してる。だが誰もその人物を知らない。こんなおかしな事はないよ? 絶対にいた。だが誰かはわからない……皆そう口を揃える」


 小林は唇を固く結んで俯いている。


「そして今回の事件だ。過去の事件そっくりそのまま。女の教祖、集団洗脳、最悪の事態は免れたが、危うく集団自殺が起きていたかも知れない……」

 

 小林はなおも口をつぐんだまま俯いている。

 

 

「最初の質問に戻ろうか。小林さん……あんたなんであそこに居座ってたんだい? もしかして…………?」

 

 

「あ゙あぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ……!! ミカ!! ミカに会わせてちょうだいぃぃイ゙イ゙イ゙ イ゙イ゙ィイ゙……ミカァぁあ゙!! ミ゙ガぁあああ゙……!! 生き返るって言っだの゙に゙……!! 嘘吐き……!! あいつは嘘吐きなのヨぉおお゙お゙……!!」

 


 重要参考人の情緒が不安定となったため、これ以上の聞き取りは困難と判断。


 状態を鑑み、勾留期間中に再び聴取を行うものとする。





 追記

 

 聴取の翌朝、留置所内で小林が死亡しているのを巡回中の職員が発見。


 死因は窒息死。


 詳しい状況は司法解剖の結果待ちである。

 


 追記2

 

 司法解剖の結果、小林の気管内部から毛髪に絡まった数珠のようなものが発見される。

 

 本人の意思で飲み込んだとしても意図的に気管に入れることは困難と思われる。

 

 警察はなんらかの事故または疾病による死亡と断定する。

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