ケース7 団地の立退き㊾
卜部は大きく息を吸い込むと次いで静かに目を開いた。
「馬鹿たれ……何を泣いてる……」
かなめの方を見るなり卜部はそうつぶやいた。
「先生……!!」
背骨に残った悪寒を脇に押しやり、かなめは卜部に駆け寄った。
「先生……どこか痛い所は……? なにかわたしに出来ることは?」
「体中痛い……それより……お前は何とも無いのか?」
「はい? 少し寒気がありますけど……特には……?」
卜部は首をもたげて目を細めると、睨むようにかなめを見つめていたが、やがて溜め息を付いてどさりと頭を下げた。
「それなら構わん……張さんを呼べ……新興宗教団体が廃墟を占拠してると言えば良い……」
かなめは腑に落ちないといった表情を浮かべつつも、泉谷に電話をかけた。
「すぐ行くからかなめちゃんは大人しくしてるんだよ!?」
慌てた様子でそう言い残し、泉谷は電話を切ってしまった。
かなめ達が暗い森の中で待っているとグレーのセダンを先頭にして、数台のパトカーがサイレンを響かせながら団地にやってくる。
それからさらにしばらくすると、懐中電灯の明りを揺らしながら卜部とかなめを呼ぶ泉谷の声が聞こえてきた。
「おーい……!! 無事かー!? どこだー!?」
「泉谷さん!!」
かなめの声で駆けつけた泉谷は酷く疲弊した卜部を見て怒鳴り声を上げた。
「馬鹿野郎!! 無茶ばっかりしやがって……!!」
「酷い土地神だった……その上裏で糸を引いてる奴がいた……おそらく……」
その言葉で泉谷の顔が曇る。
「昔ここであった集団自殺と関係あるのか……?」
卜部が静かに頷くと、泉谷は腰に手を当て薄くなりかけの頭を掻いた。
「何にしろこれから全員事情聴取だ。特にあんた。小林さんだったね? あんたには聞くことが沢山あるからね……?」
小林は反論することもなく深々と頭を下げて泉谷に従う。
それを確認した泉谷が無線で連絡すると、数名の救助隊が担架を抱えてやって来た。
担架に乗せられた卜部に付き添いながら、かなめの頭の中では先程言った卜部の言葉がぐるぐると渦巻くのだった。
裏で糸を引いてる奴がいた。
恐らく……
俺が探している男だ……
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