ケース7 団地の立退き㊹


「それで……具体的には何をすれば?」 


 子供達の亡霊に引かれるようにして、ずしんずしんと近寄る魑魅すだまを横目にかなめが不安げに尋ねた。

 

を使う……」


 覚悟を決めたような卜部の横顔にかなめはごくりと息を飲む。


 霧雨煙る森の中、その言葉が持つ不吉な気配がもやのように卜部の身体から溢れ出したような気がした。



「邪道……」


「そうだ。これだけ強い陰の瘴気を喰らえば俺は奴の氣に呑まれて正気を保てん可能性が高い……


 そう言って卜部は暗い朱色をした頼りない細縄を差し出した。


「それだけですか!?」


「それだけだ……頼んだぞ」


 そう言って卜部は紐の片一方を自身の手首に括り付けて巨人の方へと歩き出した。


「まずは邪魔な子供の霊からいく……!! 奴らが消えると巨人が暴れ出すからそのつもりでいろ……!!」



 かなめの返事も待たずに卜部は手近な子供の霊に駆け寄りながら叫んだ。


「寄る辺無し、依代無し、形代無しなれど、肉と穢れを我が身に写し、降辺幽霊幽霊ふるべゆらゆらと喰らう……」


 叫ぶやいなや卜部は子供の霊の首を掴み、力任せに引き寄せた。


 遠く離れていても寒気を覚えるほどの卜部の気に当てられた霊体は、卜部に掴まれた場所を中心に血と肉片に成り失せる。


 思わず口元を覆ったかなめだったが、その後におとずれたのは、想像を絶する悍ましい光景だった。




 ぐちゅ……ぐちゃ……ぶちっ……




 卜部は掴み取った子供の喉を口に運び、音を立てながらそれを貪り喰った。


 腐った死体のような悪臭があたりに漂う。


 卜部は涙を流し、嗚咽を漏らしながらも次々と子供の霊を葬り、その屍肉を口に運んでいった。



「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙……!!」


「う、おえぇぇええええ……」


「痛ぅぅぅぅううううううっ……!!」




 卜部の悲痛で恐ろしい姿に、かなめの足はガクガクと震えた。


 いつの間にか頬には涙が伝っている。


 腰が抜けてへなへなと地面に崩れ落ちたかなめの身体を、慌てて駆け寄ってきた小林が無言で支えた。



 卜部は呻き、苦しみながらも、魑魅を縛る子供の呪霊を喰い尽くし、振り向くことはせずに大声で叫んだ。



「ぎ、巨人が、暴れ…だず…ぞ……!!」

 

 呪詛の鎖から解き放たれた魑魅の目は、恨みと呪い、そして怒りを波々と湛えている。


 魑魅は怨嗟に濁った目で辺りを見渡すと、眼前に迫った卜部を無視して、周囲の木に吊るされた縊死体達の方へと金切り声をあげながら飛びかかっていった。

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