ケース7 団地の立退き㊸
ばきばきと大木の裂ける音がした。
その音で我に返った一同は、女が首を括っていた木に視線を移す。
あ
ああ
ぶるりと縊死体の群れが震えた。
彼らは口をぽかりと開き、黒目は限界まで上に偏っている。
きぃぃこぉぉ
きゃはは
きぃぃこぉぉ
ふふふ
きぃぃこぉぉ
きゃはははははははは……!!
何処からともなくぶらんこの軋む音と、子ども達の甲高い笑い声が聞こえてきた。
裂けた木の背後から、巨大な何かが枝を踏みしめながらこちらに近づいてくるのがわかる。
卜部はその闇を睨みながら小さな声でつぶやいた。
「なるほど……子どもを贄にしたのか……」
その言葉とほとんど同時に音の正体が姿をあらわした。
それは巨大な人間のような姿をしていたが、顔は無く、目と口の窪みにはみっちりと苔が生えていた。
水を吸ってぶよぶよに腐った肌にはブランコの錆びた鎖が巻きつき、その端を持って子ども達が楽しげに回っている。
巨人が身動きする度に、または子ども達が
それはずるりと地面に落ちると、熟れた果実のように辺りに飛散し、吐き気を催すような甘酸っぱい異臭を放つ。
子ども達はそれを拾い上げると白い布袋に放り込み、また面白半分で巨人の周りを飛び跳ねるのだった。
「な、何なの……!? あの化け物は……!?」
腰を抜かした小林が震える声で卜部に尋ねた。
「ここの元土地神だ。集団自殺、そして子どもを贄に使った呪術で徹底的に土地を不浄に堕として、今じゃ忌神になってるがな……」
「一体何のために……? 光の木はなんでこんなことを……?」
卜部は声を出さずに口だけ動かした。
小林は首をかしげて聞き返したが、かなめは卜部が「すまない」そう言ったように見えた。
「先生……どうするんですか?」
恐る恐るかなめが尋ねると、卜部はいつもの様子で袖をまくって答えた。
「ああなってはもう、清めてやることは出来ない……今から神殺しをやる……」
「神殺し……」
卜部は少し躊躇ってからかなめに向き直り、手を差し出して言った。
「助手が必要だ……。かめ……手を貸してくれ。それと……」
「さっきはすまなかった……」
かなめは思わず溢れ出る涙をごしごしと拭って顔を上げた。
「仕方ない先生ですね……助手のわたしが手を貸してあげます。それと……」
「亀じゃありません……!! かなめです……!!」
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