ケース7 団地の立退き㊶
「殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した」
ぶら下がった無数の麻縄の先にはいつしか首を吊った亡者達が結わえられている。
彼らはげらげらと笑い声を響かせながら卜部を指さして口々に言った。
殺した……
その言葉の意味を理解し、かなめの胸の痛みにくっきりとした輪郭が現れる。
先生はパパとママを祓ったんだ……
そう思うと不意に涙が頬を伝った。
そんなかなめの隣で小林は口を両手で覆い涙を流している。
「ミカ……」
小林の視線の先には一人の若い女性の姿があった。
やはり他の者達同様に麻縄を首に結わえて邪悪な笑みを湛えるミカの方へ、小林はズルズルと足を引きずりながら近付いていく。
我に返ったかなめは反射的に小林の腕を掴んだ。
「行っちゃ駄目……!!」
「止めないで……!!」
小林は振り返りかなめを睨んだ。
しかしそこにいるのは、過去の傷に苦しみながらも、他者を守ろうと涙を堪える健気な助手の姿だった。
たった今起きた出来事とかなめの頬に残る涙の跡に、小林はかなめも自分と同じであることを悟り足を止める。
後ろ髪を引かれるように再びミカに視線を移すと、ミカはじっとりと恨みがましい表情を浮かべてこちらを睨んでいた。
「先生……!! 指示を……!!」
かなめは卜部の背中に向かって叫んだ。
しかし卜部は振り返らない。
「先生……!! 指示を下さい……!! どうすればいいですか……!?」
必死に叫ぶかなめの姿が、小林の中に熱い何かを呼び起こす。
小林はかなめの手を振りほどくと、卜部の方に向かって駆け出した。
ぱしぃぃん……
「あんた……!! いい加減にしなさいよ……!?」
喚き声とともに卜部の頬を小林の手が打った。
「何が邪に呑まれるなよ……!? 偉そうに……!! 今のあんたは大事な助手の女の子もほっぽり出して、自分のことしか頭にないわけ……!? 邪に呑まれてるのはあんたじゃないのよ……!!」
「俺は……」
卜部は呻くようにつぶやいた。
そんな卜部の姿を首吊り死体達は面白がるように眺めている。
「馬鹿な男……お前はまた大切な物を失った……!! あの女はもうお前を赦さない……大事なパパとママを、お前が消したんだ……!!」
いつしか地に降り立った白装束の女が卜部の背後から言った。
「黙れ……!! 俺は……」
卜部は言葉の続きを口に出来ず歯噛みした。
勝ち誇ったように嗤う女が卜部の首に手を伸ばす。
「先生は何も失ってない……!!」
かなめの声が暗い森に響いた。
「先生とわたしのことを、勝手に決めるな……!!」
そう言ってかなめはリベカの方を向いた。
「リーちゃんさん……!! あいつをやっつけて……!!」
「よろしいので……?」
「やめろ……!! かなめ……!!」
慌てて止めようとする卜部とかなめの視線が一瞬だけ交差する。
しかしかなめはすぐにリベカに向き直って白装束の女を指さした。
「走狗の理を以て迅雷と成せ……!! 急急如律令……!!」
かなめの叫びと同時に、曇天を切り裂いて稲妻が閃いた。
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