ケース7 団地の立退き㊲
「おい……!? まだ怒ってるのか!? 無事に済んだんだ……機嫌を直せ……!!」
顔を顰めて言う卜部を小林とリベカが冷たい目で見据えた。
いつの間にか黒い獣は姿を消しており、かわりに赤毛のミニピンが尻尾を振り振り卜部に言う。
「卜部先生……にぶちんでございますね……?」
「何だと……? 何の話だ……?」
リベカを睨む卜部を無視してかなめと小林が目を丸くする。
「い、犬が喋った……!?」
思わず声に出したかなめに向き直ってリベカが答えた。
「かめ様……!! 犬ではございません……!! ミニピンでございます!! わたくしめを呼ぶときは、親しみと愛情を込めてリーちゃんとお呼びくださいまし……!!」
「リーちゃんさん、さっきの黒い獣はリーちゃんさんですか!? それと、亀じゃありません……!! わたしは
リベカは、はて? と首を傾げて困った顔をした。
「なんと!? 卜部先生からはかめ様とお伺いしておりましたが……御本人がそう言うんであれば……きっとそうなんでございますね……おかしな話でございます」
「先生は意地悪なんです。いっつもわたしを亀って言って馬鹿にするんです」
リベカの前に屈んで顎を撫でながらかなめが言うと、リベカはうっとりした表情を浮かべて口を開く。
「そういうことでしたら良い考えが……ああ〜気持ち……卜部先生ったらかめ様が拐われた時に……うふふふふ……極楽でございますぅ〜」
「拐われた時に?」
「リベカ……!! お口チャック!!」
リベカは突然姿勢を正して口を噤んでしまった。
「ちょ……!? 先生!! 何ですか今の!? これ解いて下さい!! りーちゃんさんとお話してたんです!!」
かなめは卜部に猛抗議するが卜部は苦虫を噛んだような顔でぴしゃりとそれを跳ね除ける。
「やかましい……!! 知る必要の無いことだ……」
かなめが残念そうにリベカに目をやると口を利けないリベカがこっそりかなめに目配せした。
「それより行くぞ。
「え……!? 魑魅様はさっきリーちゃんさんが食べちゃったんじゃ……?」
「バカタレ……事務所での出来事を忘れたのか? あの程度でくたばる神がいてたまるか……!! 此処にいたのは爪先程度の分け御霊だ……」
「そんな……」
かなめは卜部の言葉に息を呑んだ。小林も驚きを隠せないと言った様子で固まっている。
「よく覚えておけ……神は人間に仕えたりしない……絶対に」
卜部は鋭い目でそう言うと再びヤマメ様たちを踏みつけながら出口へと向かった。リベカも信者達を踏みつけて軽やかに卜部についていく。
「あんたもついて来い……無理強いはしないがな……」
そう言って歩き出す卜部の背中を見ながらかなめと小林は顔を見合わせた。
「行きましょう……!! 先生がああ言うからには、何か意味があるんです……!!」
かなめの言葉に小林は小さく頷くと、ヤマメ様達を踏み越えて卜部の後に従うのだった。
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