ケース7 団地の立退き㉚
「先生……先生……腹痛先生……!!」
「お前たちは……!?」
声の方へ目をやると、一際大きい鳥居の上に、気味の悪い人形を握りしめた後藤と吉田が立っていた。
人形の首が捻じ曲がっていることに気付いて再び卜部の纏う空気が引き締まる。
「いったいそんな所で何してる……?」
二人はゆっくりと互いに顔を見合わせてから大きく口を開けて言った。
「ぼ、ぼぼぼぼ僕たち……」
「わわわ……私達は……」
「「新しい世界に……」」
「「飛び立つのです……!!」」
芝居がかったその言い様に卜部は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「飛び立つのは大いに結構だが……その首に結んだロープを解いてからにしたらどうだ……?」
「……いのに……」
「卜部先生のお知り合いの方々……何かおしゃってるようですよ?」
「お口チャック……!!」
「はい。チャック」
先程までとは打って変わって、ボソボソと何かをつぶやく二人の声に卜部は意識を集中した。
「死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに死にたいのに」
二人は同時に顔を上げて卜部を睨み大声で叫んだ。
「あんたの人形のせいで死ねないんだよぉおぉぉぉぉぉぉぉおおぉおおおお……!?」
「なら人形を捨てればいい。なぜそうしない?」
卜部の言葉に二人の顔がぐにゃりと歪んだ。
「なんだ? さっきまでの威勢はどうした……?」
怒りに満ちた歯軋りの音がピタリと止まると、二人の下顎が大きく垂れ下がり、そこから墨汁のように黒い何かが滝のように地に向かって伸びていく。
まるで雨に濡れた電線のように黒光りするそれは地面に打ち当たるとのたうつように跳ねて卜部に襲いかかった。
「ふん……ちょうどこいつが貴様に効くか試してみたかった……!!」
卜部はそう言ってポケットから鋭く尖った岩塩の結晶を投げつけた。
それが襲い来る黒い縄の先端に触れるやいなや、黒光りした身体がパンッと音を立てて弾け飛んだ。
「塩が塩気を失っては価値がない。だがこいつは塩気を失っていない塩の本質だ……!! その上丹念に聖別してある」
それを聞いたお口をチャックされたリベカがんーんーと何かを訴え始めたので卜部はチャックを解いた。
「今度はなんだ……!?」
「さっきの価値のくだりでございます!! あれはもしや価値と勝ちを掛けてるんでございますか!? わたくし感動いたしました!!」
「……」
卜部はこめかみをひくひくと痙攣させながら、リベカから目を逸らし後藤と吉田に目をやった。
どうやら正気に戻った二人は鳥居の上で高さと恐怖に震えて抱き合っていた。
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