ケース7 団地の立退き㉖


 

 リベカはスタスタと三号棟を素通りして四号棟に続く駐車場の方へと進んでいく。


 廃墟の中を赤茶色の小型犬の後に付いて男が歩く姿には異様なものがあった。


 しかしその異様な光景を上回るほどのが卜部の眼に飛び込んでくる。

 



「なんだ……これは……?」

 

 思わず口に出した卜部にリベカが振り向き言った。

 

「真っ赤なでございますね。まぁ何と言いますか……数が多い気がしなくもないですが……」

 

 リベカはと声に出して数えていたが、を超えると、再び一に戻ってしまいやがて数えるのを諦めてしまった。


 駐車場には霧が重く立ち込めており、屋根付きの渡り廊下があった場所には朱い鳥居が連続している。


 伏見稲荷を連想されるその鳥居には墨書きで呪いの文字がびっしりと書き込まれていた。



 しかし卜部は連続する鳥居には目もくれず、駐車場に不規則に並ぶ大小さまざまな鳥居を凝視して言う。



「何が少しばかりだ……それにこの異常な配列……これはまるで……」

 

「まるで!!」


 確かにリベカの言う通り、鳥居の上に鳥居が立っていたり、直角に交わるように絡み合った鳥居はジャングルジムに見えなくもない……



 遊具に興奮して嬉しそうに吠えたリベカに卜部が吠え返す。 


「違う!! このバカタレ!! これは結界だ……!! 系統としては禁踏断絡縁きんとうだんらくのぶちに似ているが……」

 

「あまり大声を出さないでくださいまし……ミニピンは耳がいいんでございますから聞こえております……御覧くださいこのピンと立った耳……!!」

 

 悲しげに上目遣いでつぶやくリベカに、卜部は再び目頭を押さえて低い唸り声を絞り出した。

 



「すまん……だがこの鳥居……おそらく正しい手順でくぐらねば何処かに飛ばされる。下手をすれば何処かに閉じ込められるだろう……道筋はわかるか?」

 

「いえいえ。わかって頂ければ何の問題もございません……はいぃ。して、かめ様のを辿ればよろしいんで? それなら問題ございません!! 無問題でございます……!! このリベカ、たとえ命に変えても!! 必ずや、かめ様の元へと御主人様をお連れして見せましょう!! うぅふふふふふふふ……」


 リベカは嬉しそうに尻尾を振り回しながら、ハァハァと興奮した様子で息を吐いていた。


「わかった……わかったから早く案内を頼む……」

 

「では、いざに出発でございます〜!!」


 

 そう言ってリベカは駐車場に並ぶ鳥居の中でも、いちばん小さく目立たない鳥居をくぐっていった。

 

 雨に濡れた地面を見下ろして、卜部は大きくため息をつく。

 

「まったくだ……」

 

 そう独り言ちてから、卜部は水溜りに浸かりながら、腹這いで小さな鳥居をくぐるのだった。

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