ケース7 団地の立退き㉔
「行くぞかめ……!!」
そう言って卜部は階段を降り始めた。
しかしいつになってもお決まりの台詞が返ってこない。
なんとなく締まりが悪いような気がして卜部は再び声を上げる。
「おい……!! かめ……!! モタモタするな!!」
やはり応える者は無く、卜部の声は虚しく風にさらわれていった。
「!!」
卜部の霊感が微かな揺らぎを捉え、瞬間に理解する。
「かなめ!!」
卜部は階段を駆け上がり四階の廊下に飛び出した。
バタン……!!
バタン……!!
バタン……!!
バタン……!!
四つの扉が順に勢いよく閉まり、小林の部屋の扉だけがきぃぃぃぃ……と音を立ててゆっくりと閉じていく。
卜部は迷わず小林の部屋に駆け込んだ。
「おい!! うちの助手を何処にやった……!?」
凄む卜部を椅子に座った小林が無表情で見据える。
小林はゆっくりした動作でラジオのスイッチを入れた。
「ガガガ……離して……!! ガガッガガリガリガリ……!!」
「ジージジジ……離しなさい……!! ガァァァアアア……ひっ……!? やめて……!! ザザザザザザザザザ……」
かなめの声はノイズに掻き消されて聞こえなくなった。
卜部は無言で小林を睨みつけたまま静かに一歩踏み出す。
「私を殺しても無駄よ……?」
小林は恐怖を滲ませながらも引き攣った笑みを浮かべて卜部に言った。
しかし卜部は小林を素通りしてラジオを手に取り答える。
「ああ。俺は邪祓師だ……仕事は除霊でも人殺しでもない……邪悪を祓う……それだけだ……!!」
そう言って卜部は玄関へと向かった。
ドアノブに手をかけて動きを止めると、背中越しに小林につぶやく。
「あんたも精々……邪に飲み込まれないことだ……!!」
そう言って振り返った卜部の瞳の中に揺れる仄暗い炎に小林は寒気がした。
小林は思わずゴクリと唾を飲む。
「あんたの崇拝するヤマメ様とやらに伝えておけ……うちの助手に手を出せば……」
「祓うだけでは済まさない……と」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます