ケース7 団地の立退き⑱


 ゴンゴンゴン……

 

 重たい鉄の扉を叩く音が四階の廊下に響いた。

 

 しかし中からは何の反応も返ってこない。

 

 痺れを切らした卜部が大声を上げる。

 

「おい……!! 小林さん……!! いるんだろ!? 話を聞かせてくれ……!!」

 

 慌ててかなめが卜部を止める。

 

「ちょっと先生……!! そんな言い方したら怖がって出てこなくなっちゃいますよ!!」

 

「ならどうする……? 出てくるまでここで待つのか?」

 

「わたしに任せて下さい……!!」

 

 かなめはそう言って咳払いをひとつして声を出した。

 

 

「小林さん? 聞こえますか? わたし達は役所の人間じゃありません!! の者です!! ひょっとして心霊現象でお困りじゃありませんか?」

 

 

 そこまで言ってかなめは話すのをやめた。

 

 そんなかなめを卜部は目を細めて睨んでいる。

 

「おい……何の反応もないぞ……?」

 

「しー!! 黙っててください……!!」

 

 

 しばらくすると、チェーンロックのかかった扉が静かに開き、隙間から小林が顔を出した。

 

「こんにちわ! わたしは万亀山かなめです! こっちが霊媒師の卜部先生です!」

 

「俺は霊媒師じゃない!! の卜部だ!!」

 

 つぶやく卜部を無視してかなめは続けた。

 

「小林さんですよね? ここは霊がたくさんいて危険です。わたし達で良ければ力になります!! お話を伺えませんか?」

 

 小林は目だけ動かしてかなめと卜部を上から下まで品定めしてから静かにドアを閉じた。

 

「小林さん……!!」

 

 かなめが慌てて名前を呼ぶと、今度はドアが全て開いた。

 

「入ってちょうだい……何もお構いは出来ないけど……」

 

 

 誇らしげに自分を見上げるかなめに、卜部は苦虫を噛み潰したような顔をして口をパクパクさせていた。

 

 

 部屋に入ると、役人の話では送電はすでに打ち切られているはずだったが、奇妙なことに電気が付いていた。

 

 それだけでも異様なのだが、それ以上に不気味な何かが漂っている。



 ……

 

 

 そのことにかなめが気づくのとほとんど同時に小林が口を開いた。

 

「暗くてごめんなさいね……蛍光灯が切れかかってるのよ……きっとそうよ……」

 

 少し茶渋の残ったティーカップに紅茶を注ぎながらそう言った小林にかなめは小さく会釈する。

 

「い、いえ……それより……小林さんはどうしてここに戻ってきたんですか……? その……」



?」

 

 目を見開いて言う小林の姿にかなめの心臓が早くなる。

 

 何も答えられずに黙っていると、小林は向かいの席に腰掛けてぽつりぽつりと話し始めた。

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