ケース7 行政依頼 その壱
ケース7 団地の立退き①
路肩に停めた白のライトバンの側面には〇〇市役所の文字が見える。
そこから作業着に身を包んだ二人組の男が出てきて、薄暗い路地へと入って行った。
真面目そうな眼鏡の男が先に立ち、人の良さそうな小太りの男があとに続く。
二人は薄汚れた雑居ビルの前でなにやら短く会話をすると、おもむろにガラスの扉を押し開けて中に入っていった。
階段を上り雑居ビルの五階に着く頃には、小太りの男の額には汗が滲んでいる。
二人は擦りガラスのはまったアルミ製の扉の前に立つとメモを取り出して指を差しながら確認しあった。
白いプラスチックプレートには明朝体の黒字で『心霊解決センター』の文字。
「ここで間違いなさそうですね……」
小太りの男が弱々しく言った。
「とにかく入りましょうか……?」
メガネの男が答えた時だった。
「依頼人の方ですか?」
二人はびくりと身体を跳ねさせて同時に振り返った。
そこには可愛らしい女性が立っていた。
薄い水色のブラウスに紺色のカーディガンを羽織り、肩ほどまで伸びた髪を群青色のシュシュで一つにまとめたその女性は、薄暗く陰気な雑居ビルには不似合いな感じがした。
「申し遅れました! 私はここで助手をしている
二人は返事をする間もなく促されるままに中に入った。
ガランとした事務所には来客用と思しき革張りのソファが二つとローテーブルが一つ。
そして事務用の机が一つと、古い木製のデスクが一つある他にはほとんど何もなかった。
申し訳程度に置かれた鉢植えの観葉植物がいやに浮いた印象を与える。
「ソファにお掛けになっててください! 今先生を連れてきますので!!」
そう言ってかなめは観葉植物の影に隠れた扉の前に立つとドンドンとすごい音を立てて扉をノックして、叫んだ。
「先生!! 依頼人の方がお見えになってます!! さっさと済ませて出てきてください!!」
しかし返事は無かった。
ふぅ……とか、うぅ……とか言う呻き声のようなものが微かに聞こえてきて、二人は何とも不安な気持ちになる。
「え!? ここにですか!?」
扉に耳を押し当てたかなめが戸惑ったような声を出す。
「わ、わかりました……そう伝えます……」
そう言ってかなめは依頼人二人の前に立つと申し訳無さそうに言うのだった。
「あのですね……先生、今すごく調子が悪いみたいで、こちらに出てくるのにまだ時間がかかるみたいなんです……」
「あっ……!! 大変失礼しました!! アポも取らずに突然押しかけたものですから……日を改めてまた伺ったほうがよろしいでしょうか?」
メガネの男が慌てた様子で、いかにも役所の人間らしい腰の低い丁寧な受け答えをすると、かなめは困ったような表情を浮かべて口にした。
「いえいえ……連絡もろくに付かない事務所なので、とんでもないです。それより……お二人でソファをあちらに運んでもらえませんか……?」
かなめは観葉植物の方を指さして言った。
二人はそれを聞いて顔を見合わせる。
「その……先生はあっちの個室で話を聞くそうなので……扉に向かってご要件をお話いただければ……」
申し訳無さそうに言うかなめに二人は黙って頷くと、ソファを扉の前に置き話を始めるのだった。
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