ケース6 田園の一軒家㉒


 

 高速道路を降りる頃、フロントガラスに大粒の雨が音を立てて落ちてきた。

 

 助手席の足元には墨汁のような黒い水が、かなめのくるぶしあたりまで溜まっている。

 

 その雨はまるで地蔵の涙に呼応するかのように重苦しい黒い気配を孕んでいた。

 

 

「嫌な雨ですね……」

 

「ほんとに……」

 

「視界が悪いので少しスピードを落とします」

 

 

 

 ポツポツと屋根を叩く雨の音が響く。

 

 

 ポツポツ

 

 

 ポツポツ

 

 

 

 バン……。

 

 

 

 雨音に混じって車の屋根に何かが落ちてきたような音が聞こえた。

 

 

 その瞬間二人の息が止まる。 

 

 

「気にしちゃ駄目です……」

 

 かなめが地蔵を見ないように横目で翡翠につぶやいた。

 

 翡翠も前だけを見つめて静かに頷く。

 

 

 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン

 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン

 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン

 バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン

 

 

 やがて雨音は聞こえなくなった。

 

 車内に響くのは無数の手が屋根を叩くような暴力的で悪意に満ちた音だけになった。

 

 

 二人は黙って音に耐えながら、卜部の示した地蔵の場所に向かう。

 

 

 やがてひとつ目の地蔵の場所にたどり着くと、雨に濡れたすすきの影に地蔵が佇んでいた。

 

 

「何か感じますか……?」

 

 翡翠の問いかけにかなめは首を横に振った。

 

「ここは何も感じません……多分……」

 

 

「どんどん次に行きましょう!!」

 

 翡翠は車を発進させた。

 

 するとまたしても卜部が予想をたてた場所に地蔵はあった。

 

 

「すごい……卜部先生はここに来てないんですよね……?」

 

「はい……わたしも何でこんな事ができるのかさっぱりです……」

 

「気配はどうですか?」

 

 かなめはまたしても首を横に振った。

 

「次です!!」

 

 

 二人は次々と地図に示された地蔵の場所に向かったが、どれも同じような地蔵ばかりで要になっている地蔵がどれを指すのか解らなかった。

 

 

「翡翠さんどうしましょう……!! 全然わかりません……!!」

 

 

「かなめさん落ち着いて……」

 

 

「でも……!! わたしが見つけられなかったら先生や泉谷さんが……」

 

 

「落ち着いて!! 卜部先生はかなめさんなら出来ると思ってこの役を任せたはずです。卜部先生の言葉を思い出してください……何かヒントがあるかも」

 

 

 かなめは目を閉じて卜部の言葉を思い出した。

 

 

「お前の直感を信じろ」

 

 

 そう直感だ。先生は直感を信じるように言った。

 

 わたしの直感!! 直感で要石を探すならどうする!?

 

 

 かなめはハッと目を開いた。

 

 

「翡翠さん!! 今から言う場所に向かってください!!」

 

 

「何番目の地蔵ですか?」

 

 

「地蔵の場所じゃありません!!」

 

 

「え?」

 

 

 かなめは光の宿った目で翡翠を見つめて言った。

 

 

「おばあさんの家です……!!」

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