ケース6 田園の一軒家⑩

 

「おおよその予想がついた……準備がいる一旦戻るぞ」

 

「卜部!! どういうことだ!? 消えた人たちはどうなったのかもわかったのか!? 巡査は……小川は生きてるのか……?」

 

 

「おそらく今はまだ生きている……だがお巡りはあきらめろ。準備をしてここに戻る頃にはおそらく……」

 

 卜部は泉谷から視線を逸してぼそりと言った。

 

 

 それを聞いた泉谷は目を見開いてつぶやいた。やがてそのつぶやきは怒鳴り声に変わる。

 

 

「卜部……本当か……!? あいつはまだ生きてるのか!? 俺は警察官だ!! まだ生きてる人間がいるのに見殺しには断じてできん」

 

 

 今にも掴みかかりそうな勢いの泉谷を前に卜部は淡々と答えを告げた。

 

「残された時間はわずかだ……準備なしでは全滅する。一人救うために三人死ぬのはあんたも不本意のはずだ……」

 

 

 ぐぅと唸り声を上げてから泉谷はがっくりと肩を落とした。 

 

 

「あいつは……小川はどこにいるんだ?」

 

 

 

 卜部は静かに件の家に視線を向けた。

 

 それを見て泉谷はごくりと唾を飲む。

 

 

「まずは地蔵を探す。おそらくこの地蔵を中心に螺旋状に配置されているはずだ。俺はその間に取りに行くものがある……」

 

 

「時間がないんですよね? 地蔵はわたしが引き受けます!! 指示を下さい!! 先生はその間に小川さんの救出を!!」

 

 

 突如かなめが声を上げた。その目は覚悟の決まった強い光を放っている。

 

 

 予想外の提案に卜部は眉間にしわを寄せた。

 

 

「言っておくが地蔵の対処も安全なお使いじゃないぞ……?」

 

 

「危険は覚悟してます……でも助けられる可能性があるなら……わたしはそっちに賭けたいんです!!」

 

 

 

「それに、先生なら大丈夫って信じてますから……!!」

 

 

 

 かなめは精一杯の不敵な笑みを浮かべて見せたが、それは引きつったひどく不格好なものになった。

 

 

「ふん……!! 格好つけるなら、まずは鏡の前で練習してからにするんだな……!! 張さんと一緒に行け。ただでさえのろまの亀だ。足が無いと間に合わん」

 

 

 

「それも大丈夫です!! ちょうど近くに助っ人が来てます!!」

 

 

「なにぃ?」

 

 

 怪訝な表情でかなめを見つめる卜部をよそに、かなめはバッグから携帯を取り出して誰かに電話をかけた。

 

 

 

「もしもし翡翠さん? 助けてほしいことが……すぐに指定する場所までこれますか?」

 

 かなめは携帯を仕舞うと親指を立てて勝ち誇ったように言う。

 

 

「亀にはうさぎの友達がいるんです!!」

 

 

 それを聞いた泉谷はかなめの横に回り込むとこっそりと耳打ちした。

 

 

「かなめちゃん……亀じゃないんじゃなかったのかい?」

  

 

「あ……」

 

 

 かなめは咳払いしてからバツ悪そうにぼそぼそと言い直す。

 

 

「間違えました……亀じゃありません……かなめです」

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