ケース6 田園の一軒家⑦

 

 しろ

 

 童の擦り切れ懇々たる

 

 白

 

 呵るにいらずんばミコト祝詞の

 

 シロ

 

 汝の仇敵に侃々諤々たる血の

 

 城

 

 戦々恐々と粛々におはします我らの

 

 しろ……

 

 どんつくどんつくふりさけ見れば延々たる

  

 帰路……

 

 きろ……

 

 きろ……

 

 

 

「起きろ!! おい亀!! 起きろ!!」

 

 

 

「へ……?」

 

 目を開くとそこには憎々しげに自分を睨む卜部が立っていた。

 

 

「な……!! な、なんでここにいるんですか!?」

 

 かなめは飛び起きざまに叫んだ。

 

 

「馬鹿を言うな!! ここは俺の部屋だ!!」

 

 

 そうだった……

 

 かなめは昨夜の出来事を思い出して頭を抱えた。

 

 卜部のお説教が始まろうかというちょうどその時、部屋の扉を叩く音がした。

 

 

「おい卜部。入るぞ」

 

 

「くそ……!! ややこしい時に……」

 

 忌々しそうにつぶやく卜部のことなどつゆ知らず、泉谷は無遠慮に扉を開いて入ってきた。

 

「今日の予定だがな……」

 

 そう言って顔を上げた泉谷はベッドのかなめと目があった。

 

 

 まずい……

 

 

 かなめが事情を説明するより先に泉谷は咳払いをしてドアの方に戻ってから静かに口を開く。

 

 

「お邪魔しました……」

 

 わざとらしく眉を動かしてニヤリと笑う泉谷。

 

 

 

「ち、違うんです!! これには理由が!!」

 

「まて!! 違う!! あんたは勘違いしてる!! おい!!」

 

 二人は同時に叫んだが泉谷はくくくと笑いを噛み殺しながら部屋を出て行った。

 

 

「ええい……!! あのエロジジイが……!!」

  

 卜部は悪態を吐きながら泉谷を追って部屋を出て行った。

 

 

 結局ムキになって否定する卜部をかなめが宥める形で話は幕を閉じた。

 

「言っておくがあんたがどう思おうと真実は揺るがんからな?」

 

 鋭い目つきで泉谷を睨みつけながら卜部がトーストを齧る。

 

「まぁまぁ。ここはそういうことにしておきましょう」

 

 泉谷は余裕の表情で両手を広げて笑っている。

 

 

 いったいどれほどの数の容疑者達を前にこの笑顔で取り調べをしてきたのだろう……

 

 

 かなめはぼんやりとそんな事を考えていた。

 

 

「ところで……昨夜はまったく酷い目にあったぜ」

 

 泉谷はコーヒーを飲みながらため息をついた。

 

 卜部はまだしかめっ面を浮かべたまま目玉焼きの白身を綺麗に切り分けていた。

 

 

「何があったんですか?」

 

 かなめは空気を変えようと話の続きを促す。

 

 

「悪夢だよ!! 悪夢!!」

 

「妙にリアルな夢でな……最初はまったく夢だと思わなかったよ!!」

 

「過去に取り逃がしたホシが目の前を横切るんだが追いかけると消えちまう……」

 

「廃墟の中をうろうろ探し回ってると出るんだよ……」

 

 

 そこで泉谷は少しバツ悪そうに横を向いて頭を掻いた。

 

 

「邪視ですか……?」

 

 かなめは恐る恐る尋ねた。

 

 

 

「いや……過去に死んだ奴らの幽霊だよ……」

 

 泉谷の声にはいつもの元気さが無く、そこにはどこか寂しいような物悲しい響きが含まれていた。

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