ケース6 泉谷張の依頼
ケース6 田園の一軒家①
路地裏に隠れた雑居ビルの五階にひっそりと佇む事務所。
真っ白なプラスチック製のプレートには黒字の明朝体で「心霊解決センター」の文字が踊る。
ノックもせずに初老の男性がその扉を押し開けた。
小柄な男の風貌はいかにもと言った感じのデカである。
「あっ!! 泉谷さん!! こんにちわ!!」
その姿を見るなり、書類の整理をしていた女性が人懐っこい笑顔で声をかけた。
「おおぉーかなめちゃん!! あの時以来だね。元気そうでなにより!! それより……」
泉谷はわざとらしく手の甲で口元を隠した。
「卜部はいつもの部屋かい……?」
ニヤリと笑って泉谷が言うと、かなめはクスクスと笑ってうなずいた。
「先生、地獄耳だから聞こえてますよきっと……」
かなめも声をひそめて泉谷にそう言った時だった。
ジャーーーーーーーーーー
水の流れる音が聞こえた。
「誰が地獄耳だって……?」
鉢植えの観葉植物で隠された個室の扉を開いて無精髭に痩けた頬、鋭い目つきの男が現れてドスを利かせた。
心霊解決センターの邪祓師、卜部である。
卜部はかなめを睨みつけた。かなめは知らん顔で口笛を吹きながら電気ポットに向かいお茶の準備をする。
「よぉ卜部!! 相変わらずの腹痛か!?」
茶化す泉谷を睨みつけて卜部はソファを顎でさした。
二人が向かい合って古い革製のソファに腰掛けるのと同時に、かなめは熱いルイボスティーを二人の前に置いた。
「で? どんな依頼内容だ?」
卜部がルイボスティーをすすりながら切り出した。
泉谷の表情から先程までの和やかさが消えて真剣な面持ちで一冊のファイルをローテーブルの上に広げた。
「ある空き家について調べてほしい……」
前かがみで真剣な眼差しを向ける泉谷の顔はすでに刑事のそれに変わっている。
パラパラとファイルをめくって卜部はつぶやいた。
「人が消える空き家か……以外だな……てっきり未解決事件の犯人の痕跡を探せとか何とか言うと思っていたんだが……」
泉谷はセブンスターに火をつけて言う。
「そんなもんは警察の威信に賭けて自力でなんとかすらぁ……!! ホシを上げるのは俺たちデカの仕事だ!!」
「ふん……!! それならこの空き家の件はなおさら警察の仕事じゃないだろうに……なぜわざわざあんたが気にかける?」
「馬鹿野郎!! 市民の安全と安心して暮らせる町づくりも警察官の立派な職務だろうが!! それに……」
泉谷は大きくため息をついてから声を低くして言った。
「その空き家の近くに配属されたお巡りが消えたんだよ……空き家の前に自転車だけ残してな……」
それを聞いたかなめの背中に冷たいモノが走った。
話しぶりから推測するに、どうやらすでに何人もの人が失踪しているらしい……
「まずは現場を見に来てくれ。案内する」
そう言って泉谷は立ち上がった。
「いいだろう。これで前回の貸し借りは無しだ」
卜部も立ち上がり出口に向かう。
「行くぞ亀!!」
背中越しに言う卜部に向かってかなめは叫んだ。
「亀じゃありません!! かなめですぅ!!」
こうして一行は件の人が消えるという空き家へと足を運ぶのだった……
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