第19話 オフと疑念
翌朝、プレイヤー九人が目を覚ます。
朝食後にロビーに行き、誰も欠けていないことを発見した。
少し遅れて会長が拍手をしながら現れる。
「諸君。おめでとう。これで第一の殺人鬼ゲームは終了だ。この段階で当てられるとは思ってもいなかったよ。もう少し人数が減るかと思っていた」
いつものようにプレイヤーCが絡んだ。
「じゃあ、さっさと次のゲームを始めろよ」
「こちらにも準備の都合というものがあってね。今日一日は自由時間だ。ここロビーと二か所の食堂、各自の部屋は好きに使ってくれていい。昨日のように親睦を深めるもよし、英気を養うもよし、だ」
それだけ言うと会長はスタッフを引き連れて立ち去ってしまう。
毒づくかと思われたCだったが意外と大人しかった。
「まあ、運勢も増減するからな。もう一日ぐらいすれば、Jさんの運気が下がるかもしれねえ。それはそれでいいかもな」
大鷲が坂巻に話しかける。
「差し支えなければ、プレイヤーDが殺人鬼と考えた理由を教えてもらえるだろうか? 相当自信があったからこその昨日の発言だろ?」
「なんとなくだ。語るほどのものはない」
「そうか。それは残念だな。まあ、仕方ないか」
アンダードッグ・ゲームの参加者はお互いが競争相手であった。
ただ、殺人鬼ゲームはある意味で、一人の殺人鬼対残り全員という構図なので、プレイヤー同士の協力体制も求められる。
しかし、今後はどうなるか分からなかった。
あまり馴れあっても自分の首を絞めるだけという認識が各人の中に生まれつつある。
自然とお互いが離れた位置でそれぞれ過ごすことになった。
***
自室に引き上げた会長は里見を呼び寄せる。
「さて、まずは第一ゲームに対する総括を聞こうか」
「十二名から九名へと三名減で終わったのは想定よりも早いですが、ゲームが長引くよりは良かったと思われます。クライアントの反応も上々でした。番狂わせの結果となったことで二日目の掛け金を総取りするクライアントが出ており、次こそはとコミュニティは盛り上がっています」
「そうか。確かにプレイヤーJの推理と度胸は見ごたえがあっただろう」
「会長、一つお聞きしてもいいですか?」
「なんだ?」
「プレイヤーJは悪徳警官とはいえ、警察官には変わりありません。不安要素でもありますが、このままでよろしいのでしょうか? いえ、訴追の恐れということではなく、うまくゲームを勝ち残ってしまうのではないかと考えますが」
会長は鼻の下に指を当てた。
しばし沈思黙考すると口を開く。
「全員死亡して勝者無し、次回参加者を求むというのが当初のシナリオではある。ただ、十億という金は優勝者にくれてやっても惜しい金額ではない。勝者を大々的に称えて、次回を開催するというのもそれほど問題があることではないと思う」
「分かりました。それではJがうまく立ち回ると犠牲者が発生しない結果もありえますが、第二ゲームは当初想定通りでよろしいですね?」
「確かに第一ゲームで三人しか減っていないことと組み合わさるとあまり望ましくは無いが……。まあ、第二ゲームの賞品の数で調整は可能だ。予定通りの実施で構わない」
「了解いたしました。それでは準備を進めます」
里見が部屋を出て行くと会長はもう一度考えた。
殺人鬼に女性を配したのはなかなかいいアイデアだと思ったのだが、見事に的中されてしまうとはな。
十三人も殺して隠蔽しているのだから女性には難しいはずだ。
そういう認知バイアスがかかることを期待していた。
実際、様々な現実の事件を知っている弁護士の大鷲もそういった考えに囚われていたようなことを言っている。
まあ、それが常識的な考えというものだ。
あのおバカな大学生が全く見当違いのことを言いださなければ、もうちょっとバイアスが機能したかもしれない。
それと、態度の悪いプレイヤーCに対する嫌悪感から女性が団結して集団票を握り、一日空費する予定が狂ったのも計算外だった。
そういう意味では各プレイヤーが地味に役割を果たしているとも言える。
ただ、第一ゲームのMVPは死んだプレイヤーAではあるのだろう。
麻酔で痛みを感じにくかっったということもあるのだろうが、切り刻まれながらも、犯人を示すアルファベットを指で示すとは尋常ではない。
それに気づくことができたプレイヤーJもさすがと言うべきだ。
少し計画とズレが生じてしまったな。
ふふふ。
まあ良い。
まだまだゲームは残っているのだから、計画が失敗したという評価にはならないはずだ。強いてこの状況を言葉で表すとするならば、進行中ということになる。
次のゲームは追跡者がどのプレイヤーを追うかということが鍵を握っていた。
そして、その誰を追うかは運次第というところがあり予測することは難しい。
きっと狙い通りの展開になるだろうと楽観視しようとしたところで、一つの疑念が頭に浮かんだ。
あの坂巻という警察官はおとり捜査官なのではないか。
単なる汚職警官としては腕が良すぎる。
捜査情報を横流しして内偵の対象となっているということについては確認済みだ。
しかし、その点を含めて偽装という可能性もありうる。
今回のアンダードッグ・ゲームはSNSを通じて大々的に実施したが、今までも小規模なものを複数回開催していた。
そのことを嗅ぎつけて潜入捜査……。
いや、まて。
疑心暗鬼になりすぎだな。
一昨日は司会進行を務めただけだが、少なくとも二回目に棺桶にDを入れるべきと名指しして主導したのは坂巻だ。
あれは殺人の教唆として罰せられてもおかしくない。
いくら捜査のためとはいえ、人ひとりを殺せば免罪されることは難しいだろう。
警察官として許される行動ではない。
ゲームの運営を司直の手に引き渡せば、当然坂巻も訴追されることになるはずだ、と会長は考えた。
まあ、坂巻がおとり捜査官なのかどうかはともかく、キーパーソンなのは間違いない。
もう少し動向を注視することにしよう。
インカムを手に取ると里見に対して、坂巻への監視体制を強化するように指示を出した。
会長はロビーの様子を移すモニターに目をやる。
気になる坂巻は、一人用のソファに身を沈め、珈琲カップを横の小テーブルに置いて、持ち込んだクロスワードパズルに没頭していた。
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