第14話 議論再戦

 ロビーに集まったプレイヤーは数人を除き、顔色が優れない。

 さすがに二日連続で凄惨な姿の遺体を見て、さすがにかなり精神にダメージを追っていた。

 いずれ何らかの非行に手を染めてはいるものの、他殺体を見る経験は通常の人生では滅多にあるものではない。

 比較的顔色が変わっていないのは、プレイヤーCとD、それに坂巻である。

 もちろん、そのことを全員が観察できているわけではない。

 平然と写真を見ていたプレイヤーCが天井に向かって声を張り上げた。

「そういえばよう。誰か一人が殺人鬼かどうか分かるって話だったよな。そいつを明らかにしてくれよ」

 天井のスピーカーから返答がある。

「もう、今朝すでに当人には回答ずみだ」

「俺は聞いてねえ。もったいつけずにさっさと答えやがれ」

 喚くがスピーカーは沈黙を保ったままだった。

 プレイヤーCは舌打ちをする。

「ったく。くそ面倒くせえ。おい、答えを聞いたやつ、さっさと答えを披露しろよ」

 返事がないことに床を蹴りつけた。

「おいっ。人の話を聞いてるのか?」

 周囲を威嚇するとプレイヤーEの札を付けた篠崎がおずおずと手を挙げる。

「朝食の後、部屋の電話にかかってきて聞きました」

「で?」

 篠崎は心の中で迷った。

 答えを言うのは構わないが、判断を仰ぐ対象にCを選んだこと自体に気分を害するのではないか? 

 しかし、折角の回答を生かさなければと蚊の鳴くような小さな声で答えた。

「プレイヤーCは殺人鬼ではない……そうです」

「ほら見ろよ。運営がそう言うんだから俺は殺人鬼じゃないぜ」

 すかさずプレイヤーFが反論する。

「待って。彼女が嘘を言っているかもしれないわ」

「なんだと? いい加減にしろよ」

 プレイヤーCが歯をむき出しにするのを制してFはその理由を説明した。

「発言の中身はこの際なんでもいいの。自分に連絡があったと主張することで、自分が殺人鬼じゃないってことを示せるわ。それが狙いなんじゃないかしら」

「違います。本当に電話があったんです」

 消え入りそうな声で主張する篠崎をプレイヤーCは擁護する。

「この姉ちゃんはそんな悪知恵が回るタイプじゃねえ。どっちかというと他人に騙される方だろうよ。つまり本当に電話があったということさ。俺とこの姉ちゃんは殺人鬼じゃねえ。それでいいよな?」

「ちょっと勝手に話を進めないでよ」

 プレイヤーFは坂巻の姿を目で探した。

 自分一人では分が悪いと判断し、昨日議論をリードした坂巻プレイヤーJを味方につけようと考えたのだ。

 肝心の坂巻は言い争いに加わることなく、スマートフォンを操作して目を凝らしている。

「ねえ。Jさん。何を見ているの? そんなことよりも議論に参加して欲しいんだけど」

 反応しないので、Fは坂巻の近くに行ってスマートフォンを覗き込んだ。

 画面には何かの画像が写っている。

 解像度が粗く一体何の画像なのかは分からなかった。

 プレイヤーFはスマートフォンを持つ坂巻の腕に軽く触れる。

 はっとして坂巻はFを見た。

「なんだね?」

「集中しているところを悪いんだけど、あなたにも議論に加わって欲しいのよ。Eさんが運営から連絡を受けてCが殺人鬼ではないと聞いたって。私は連絡を受けた、つまり殺人鬼じゃないとEさんが主張するための嘘だと思うんだけど、あなたはどう思う?」

「なぜ俺に聞く?」

「だって、昨夜はあなたが仕切ってみんな納得したじゃない。だから、今日も意見を聞きたいなって」

「いや、俺には判断がつかない」

 坂巻はすげなく断り、スマートフォンを見つめる作業に戻る。

 プレイヤーFは仕方なく他のプレイヤーにも意見を求めた。

 ただ、反りの合わないHに声はかけたくない。

 同じく若い女性であるIに近づいた。

「あなたはEさんの言っていることは本当だと思う?」

「本人がそう言っているならそうじゃない」

 あっさりと返されて、今日こそは危険なCを棺桶送りにしようを考えていたFの計画は早くも暗礁に乗り上げる。

 すでに女性は四人しかおらず、全体に対する影響力が減っていた。

 それなのに二人の協力が得られないとなり、もう一人の女性であるプレイヤーDに声をかける。

「ねえ、あなたはどう?」

 女性にしては背丈もありしっかりした体つきのDは、体つきに似合わない童顔の乗った首を傾げた。

「うーん。やっぱり私はCさんが怪しい感じがするかな。なんとなくだけど」

 プレイヤーFは胸をなでおろす。

「そうよね。あんな酷いヨッターの写真を見ても平然としていたし、やっぱり変よね」

 我が意を得たりと心強く感じて、大鷲の方をチラリと見た。

 少なくとも私には支持者が一人居る。

 そのことに意を強くして、声を出した。

「ねえ。また今日も誰が殺人鬼か推理をしなければならないわ。今日は昨日よりも時間があるのだから、じっくりと議論してはどうかと思うの」

 他にすることもないので、全員から賛同の声が上がる。

 プレイヤーFは様子見のために意見を募ることにした。

「なにか理由付きで怪しいと思う人物を挙げられる人はいる?」

 大鷲がすかさず反応する。

「逆に怪しくないとして除外する方法もあると思うが。消去法で絞り込んでいくのも一つの方法だ」

「それでもいいけど、じゃあ誰は違うって言うの?」

「プレイヤーCだ。昨日も主張したように、この場ではともかく、過去に十三人も殺害するのは無理だ。それにEさんも主催者からそう告げられたと言っている。これは除外する理由に十分値すると思うがね」

「だから、Eさんが嘘をついているかもしれないじゃない」

「それは無いと思うな。もし、彼女が自分の利益を図るために電話を受けたという事実を主張したいだけなら、殺人鬼かどうか尋ねる相手を決めるのに、あなたが反対するCを避けるぐらいは考えるだろう。そもそも、そんな小細工をするようなタイプとは思えないがね」

「見た目じゃ人は判断できないわよ」

「それはそうかもしれない。だけど、Eさんは写真を見て意識を失いそうになっていた。もしあれが演技だとすればオスカーものだよ。Jさんが居なければ、ほぼ確実に頭を強打していただろうからね。まあ、失神しそうになる繊細さと噓をつく大胆さは人格の中で同居できなくもないだろうが、まず矛盾すると考える方が自然だろう」

 澱みのない説明で、その場にはEが嘘は言っていないだろうという空気が生まれた。

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