7. 十一月の缶コーヒー(2)

「あー……悪い。オレ、バイトあるんだ」

 慶は腕時計を見ながら立ち上がった。

「……お前、そんなに働いて、体壊すよ」

「……」

慶は、返事せずに片付けを始めた。

「この前から、お前、おかしーよ。二年になってから、毎日、すごい楽しそうだったのに。一年のときはすごくテキトーにこなしてる感じだったのに、真剣に料理本とか見出してさあ。彼女できたんかな、って、本当に好きなんだな、って噂してたのに。先月から急に思い詰めた顔になって、めちゃくちゃ働きだして。顔色も悪いし」

 慶は、ちょっと驚いた。そんなに分かりやすかったのか。

「あー……心配してくれてありがとな」

そう言っている間に、鼻の奥が痛くなる。そんなに楽しそうだったのか?先生のところへ行くことが、そんなにオレを支えていたのか?

 心配そうな顔の友人に、慶は笑った。

「ありがとな。無理しないようにする」

「おい、慶」

「また、いつか話すよ」

「……おう」

「じゃあ、また来週」

 手を上げて去っていく慶の後ろ姿を孝之たちは見送った。

「慶さあ、雰囲気変わったよね~」

「めっちゃ雰囲気あるよね。女の子たち、みんな慶を見てるもんね。通りすがりの子もみんな慶を見てる」

美香の発言に、孝之が突っ込んだ。

「美香ちゃん、残念やなあ。慶の目は、誰かさんに夢中なんやな」

「うるさいな……仕方ないじゃん、あんな顔されたら」

「あんな顔なあ……オレ、慶のあんな顔、初めて見たわ」

「めっちゃ好きだよな、相手のこと。そして上手く行ってないっぽいよな、どう見ても」

「ま、今は何を言うてもあかんやろ。慶が話してくれるのを待ちますか」

「だよな、じゃ、飲み行くか」

「なにが「じゃ」だよ、まとまってねーよ」

 教室は笑い声と午後の光で溢れている。


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