5. 九月 薩摩芋と鶏肉の甘酢炒め(2)
「ごめん、先生、ちょっと長引いちゃって。すぐ作るね」
慶は通話時間を確認しながら、家の中に入った。トラブル解消に二十分もかかってしまった。すぐに作らないと。
「先生?」
樹の返事がないので、慶は部屋の中に声をかける。いない。
「先生?」
慶がベランダを覗くと、樹が「うわっ」と大声を出した。
「どしたんですか?」
「あ―――何でもないよ。電話終わったの?」
まただ、先生が鼻に皺を寄せて笑う。作り笑い。
「終わりました、すみません。長くて」
「いや、いいんだ。お前もいろいろ付き合いあるし、モテるしな」
「―――なに見てたの」
慶は、樹がびくっとした瞬間にスマートフォンを後ろに回したのを、遠回しに聞いた。先生はオレに「電話、誰からだった?」とか聞かない。先生はオレに踏み込んでこない。
「……何でもないよ、中、入ろう」
樹は、また鼻に皺を寄せて笑った。
薩摩芋と鶏肉の甘酢炒めを、樹は美味しい美味しいと言って食べた。酒はあったけど、樹は飲まなかった。慶だけが缶ビールを開けたけれど、座が盛り上がらなくて、半分以上残した。
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