5話目 能力開花

「───っ誰だ!」

「ウィル!何してるの?!」

ティア様が混乱した声を出す。

俺を殺そうとしたアイツ、ウィルって言うのか。

「国王からの命令なんですよ。その少年を殺せってね。」

「は…?」

俺を殺せって命令された?国王に?

なんで……

「お父様がそんなことを言うわけないわ!」

ティア様がキッとウィルをにらみつける。

「あなたや市民の前ではそう振る舞っているだけですよ。」

なんの感情も見せずに言った。

「これは私の意思ではないので。恨まないでくださいね。」

相変わらず真顔のまま告げた直後、ウィルの手に持っていたナイフが目に見えないほどの速度で飛んできた。

ザクッ

俺の真横をナイフが横切り、本に深く刺さる。

俺の顔が真っ青になる。

これ、当たったら死ぬ…!てか殺すつもりでナイフ投げてるんだろうけど。

「やめて、ウィル……」

ティア様がうつむいてつぶやく。

「すみません。国王の命令は絶対、ですので。」

ウィルはティア様に目すら向けずに冷たく言った。

その時、ティア様がいつも纏っている穏やかな雰囲気が、違うものになったような気がした。


「ウィルっっ!!やめなさいっ!!!」


パリンッ


近くで、2階に行くための階段の手すりを明るく照らしていたランタンが割れ、炎がむき出しになった。

火事になる───そう思った瞬間。

むき出しになった炎が、ティア様を纏った。

「ティア…様?」

これにはさすがに無表情で感情を持っていなさそうなウィルも、目を見開いて驚いた。

ティア様の目は、以前はサファイアのような青だったが、今はルビーのように真っ赤だ。

能力を使えるようになったからだろうか。

「これは…分が悪いですね。一旦退散します。」

ウィルは、今自分が不利だと思ったのか、そう言い残して、走り去っていった。

「何だったんだ…アイツ…」

ぺたん、と床に座り込む。

「大丈夫ですか。ティア様───」

ティア様の方に目を向ける。

ティア様は、炎を纏ったまま、頭を抱えていた。

「う、わあああ………」

うめき、苦しそうにもがく。

そして、手を俺に向かって伸ばした。

指先に炎が集まる。

ゴオオッ

「うわっ!」

俺に向かって飛んで来た炎をギリギリで避ける。

無差別攻撃をしているのか…?ティア様…!

俺が避けた炎が本を燃え上がらせる。

本が燃えてる!

急いでところどころにあった花瓶の水を全て引き寄せて燃えた本にかける。

ジュワアアア…と音を立てて炎がおさまる。

炎が完全に消えたあと、本を濡らした水を俺の手のもとに戻す。

「熱っ」

思わず、能力を消してしまい、手のもとで浮かせていた水が地面にこぼれ落ちて飛び散る。

炎を消した水は、お湯状態になっていた。

それほど火力が高かったのだろうか。

「ティア様!しっかりしてください!」

「うう……うあああ…」

ティア様に俺の声は届いていない。

きっと、能力が暴走しているのだろう。

どうにかしてとめないと。

その時、窓の外の景色が目に入った。

噴水があった。

あの水をティア様にかければ、炎が消えて、暴走がおさまるかもしれない。

遠い。俺くらいの能力の強さじゃ、ここまで持ってこれない気がする。でも、やってみないとティア様とこの書庫が……!

両手を前に出し、力を入れる。

ザバァ……

噴水の水の半分ほどがゆっくり浮き上がってこっちに向かってくる。

「わああああっっ!!」

その時、ティア様が叫びだした。

ボワッと炎が大きくなる。

背筋が寒くなる。

あれぶつけられたらやばいぞ。

はやく、はやく!

のろのろとやってくる水に苛立ちを覚える。

「あああっっ!」

ティア様の声と同時に、ゴウッと炎の音がする。

ティア様の方に視線を向けると、炎が俺に飛ばされた瞬間が見えた。

炎が俺の目の前まできたその時。


バシャアッ


噴水の水が炎とティア様を包み込むようにかかった。

炎は消え、ティア様はあやつり人形の糸が切れたかのように倒れる。

「間に合って…良かった…」

もう一度、俺はぺたん、と床に座り込んだ。

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