4話目 王城

バシャッ

「うわっ」

考え事をして、集中力が切れたのだろう。

空中で静止していた水しぶきが動き出して、俺の全身を濡らした。

「ああっ。ごめんなさい!」

ティア様が俺のところに駆け寄ってくる。

「大丈夫ですよ。ティア様は何も悪くないです。」

ティア様のドレスにかかった水を取り除いた時のように、俺の服にかかった水を噴水に戻す。

「───そうですね。確かに心配する必要はなかったかもしれません。」

ティア様が呆れたようにため息をついた。

「水を操ること、俺が簡単にやってるわけじゃないですからね。」

「えっそうなんですか?私から見ると、レファレイさんはものすごく簡単に水を操っているように見えますが。」

「────まぁ、水を浮かすくらいなら、結構簡単にできますが。」

俺は照れくさそうにつぶやいた。

「そういえば、なんであの時水が動き出してしまったのですか?」

失敗の理由を聞くとは…悪意はないことは分かってるんだけど…

「考え事をしてたからですね。」

「何を考えていたんですか?」

深くまで探ろうとするティア様。

案外、よく喋る人だな、と思った。

「ティア様が「ただの人間は能力を使えない」って言ってたじゃないですか。だから、俺ってなんなのかな。とか考えてました。」

ここで、会話が途切れた。ティア様は顎に手を当て、何やら考え込んでいる。

数分経って、ティア様が口を開いた。

「レファレイさん。それについて、知りたいですか?」

「はい。知って損はないので。」

ティア様は俺がなんなのか知っているのだろうか。

「あの…このあと時間ってあります?」

「今日は父さんが仕事なので、一日中暇ですよ。」

「では、来てください。」

そう言って出口へと歩き出したティア様に疑問を持ちながらついて行く。



「ティア様。ここって……」

しばらく歩いて、足を止めたティア様の前の建物を見上げる。

こ、この建物は……

「はい。アンデテルカ城です。」

俺は唖然とし、立ち尽くす。

俺、もしかして、これからこの中に入るのか?

「さ、入りますよ。」

ティア様は、立ち尽くしている俺を無視してスタスタと中に入っていく。

「ま、待ってください!」

城の中の人達は、温かい目で俺を見ている人もいれば、変な目で見てくる人もいた。



「ここです。ここがアンデテルカ王国で一番の書庫なんですよ。たぶん、レファレイさんのことも書いてあると思います!」

ティア様がそう言った直後、ガタッと後ろから物音がした。でも、後ろを振り返っても誰もいない。

気のせいだ、と思い、視線をずらっと並ぶ本棚に戻す。

この書庫は丸い構造でできているようだ。壁が全て本棚になっていて、3階まであった。

「ここまであったらありそうですね。───でも、見つけるの難しそうです。」

俺は顔をしかめながらつぶやく。

「ジャンルで探せばいいんじゃないですか?」

「あー。そうですね。」

1階の本棚をぐるっと見回してみる。

「お。」

さっそく、『種類・分類』とタグに書かれた本棚を見つける。

「あそこ、いいんじゃないですか?」

その本棚を指差す。

「そうですね!行ってみましょう!」

ティア様が小走りでその本棚に向かった。

後を追うように俺も小走りをする。

「レファレイさん!これ見てください!これ!」

ティア様がさっそく開いている古そうな本を覗き込む。

『人の形をしていて、何も能力の使えない生物のことを「人間」という。

人の形をしていて、何らかの能力を使える生物のことを「魔人」という。

魔人には、首元にローマ数字の痣がある。

その数字が大きければ大きいほど能力が強い。

最高が50(L)。』

そのページには、そう書かれていた。

「ローマ数字の痣、ね。ティア様、俺にあるか見てくれます?」

「はい。」

俺は顎を上に上げ、首元が見えやすくする。

「───XX…ですね。アラビア数字で表すと何なのでしょうか。」

首を傾げる。

「20…だと思います。」

「ローマ数字、お好きなんですか?」

「一時期興味を持って調べ尽くしたことがあったので、ちょっと思い出してみました。」

あんなことが、役立つとは思わなかった。

「というか、20ってすごくないですか?!」

ティア様が目を見開いている。

自分で言うのもなんだけど、確かにすごい。

その時、

ガクッ

「うおっ」

片足のバランスが崩れ、俺は床に崩れ落ちた。

その直後。

グサッ

俺の頭の上の本に、刃物が突き刺さった。

「?!」

誰かの手が本を刺した刃物を抜いた。

俺はバッと立ち上がって後ろにいる誰かから離れる。

「チッ仕留め損ないましたか。まぁいいですよ。次で殺します。」

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