3話目 能力
いつもの公園に入る。
まだティア様はいないようだ。
真ん中にある噴水の縁にそっと座る。
そして俺は頭を抱えた。
……どういう会話をすればいいんだ…
友達もいない俺は、あまり会話をする機会がない。
しかも相手は女性で王女様……
俺は、はぁ、とため息をついた。
「どうしたんですか?悩み事ですか?」
「悩み事…?悩み事なのかな────ってティ、ティア様?!」
「おはようございます。レファレイ様」
太陽というより、月のように神秘的な笑みを浮かべるティア様。
今来たばっかりなのだろうか。
それにしても、気配を感じなかった……
「ティア様。俺のことは様呼びじゃなくていいですよ。逆に、そうしてほしいです。」
「では、なんとお呼びしたら良いでしょうか?」
「呼び捨てでお願いします。」
「さっさすがにそれは……じゃあ、レファレイさん、で」
できれば呼び捨てが良かったが、王女様にあまりわがままは言えない。
「じゃあ、そう呼んでください。」
「はい。」
「…………」
「…………」
2人で黙りこくってしまう。
気まずくて、何度も何かを喋ろうと口を開けたが、言うことが見つからなくてまた閉じるということを繰り返す。
「レ、レファレイさん。」
やっと口を開いて話し出したのは、ティア様だった。
「はい。」
「水を操れるんですよね?」
「はい。…昨日見せたじゃないですか。」
「また、見せてくれませんか?」
ティア様は緊張しているのか、頬が朱色に染まっている。
「分かりました。失敗しても、何も言わないでください。」
「レファレイさんは失敗なんてしませんよ。」
「俺、失敗の回数のほうが成功の回数より多いんですが……」
そんなことを言いながら、失敗したときに水がティア様の顔やドレスにかかってしまわないように、立って数メートルほど離れる。
「ティア様。俺に向かって噴水の水を少しだけかけてくれませんか?」
「えっ大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。あの、ティア様の手が濡れてしまうんですけど、それでもよろしいですか?」
「それは全然平気です。では、いきますよ。」
ティア様が両手で水を包み込み、こっちを向いた。
意を決してうなずき、バシャッと水を俺に向かって飛ばした。
俺は深呼吸をして両手を前に出し、空気を掴む。
「────綺麗」
俺に飛ばされた水しぶきは、空中で全て静止していた。
幻想的な光景が目の前に広がる。
はぁ……成功して良かった……
ホッと胸を撫で下ろす。
そして、空気を掴んでいる両手のうち、片手だけ離してティア様に向ける。
すると、ティア様の手についていた水滴が俺のもとに引き寄せられてきた。
そのまま空気をデコピンする。
水の粒はティア様の横を通って、噴水へと吹っ飛んでいった。
ティア様は唖然としている。
「すごすぎます……レファレイさんって、もしかして水の神様なんですか?」
「そんなわけないですよ。俺はただの人間です。」
「ただの人間なら、そんな能力使えませんよ。」
「…………」
確かに、ただの人間なら、水なんて操れない。
俺って、なんなんだろう。
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