2話目 ティア・アンデテルカ
「ただいま」
今にも壊れそうなドアを開け、家に入る。
「遅かったな。もう冷めちまってるぞ。」
父様がぐいっと朝食のパンを手渡してくる。
パンくらい、冷めてても別にいい。
「自分の部屋で食べるよ。」
そう言って一段一段足を置くたびにギシギシと音を立てる階段を登る。
「うわっ」
突然、持っていた皿からパンが落ちそうになった。
あわてて自分の部屋に駆け込む。
「ふぅ……」
少し落ち着く。
今日の朝は、大変なことがあったな。まさかこの王国の王女様が話し相手になるなんて。
「ちょっとだけ、明日が楽しみだな。」
明日、またあそこに行ったら、ティア様はいるだろうか。
「ティア様。お帰りなさいませ。」
エメラルドのような瞳と、茶色と金が混ざったような髪の色が特徴の可愛らしい女性が私に声をかける。
「ただいま。リューレ。」
その女性の名前はリューレ・サイガペルト。サイガペルト家は、代々アンデテルカ家に仕えている一族。
そして、リューレは私の数少ない話し相手の一人で私の侍女。
「リューレ!今日はいいことがあったんですよ。実は──────」
レファレイ様が水の能力を使えることは言わずに、それ以外の今日の出来事を話す。
私の話が終わる頃には、リューレのエメラルドのような瞳が美しく輝いていた。
「ティア様に私と同じように会話ができる人が出来たんですか?!」
「ええ、たぶん。まだ話した回数は少ないですけれど、そのうちもっと仲良くなりたいです……!」
熱くなる頬を冷やそうと手を当てる。
ふとリューレを見る。輝いていた瞳が暗くなっていた。
「リューレ?」
「…ティア様。そのレファレイとやらに騙されてるんじゃないでしょうか。」
突然変なことを言ったリューレ。レファレイ様に対する態度が急変している。
「そ、そんなわけないじゃない!」
つい大声で言ってしまう。その後、
「…誰にも言ってない秘密も言ってくれたし。」
と、自分にしか聞こえないくらいの音量で付け加える。
「ティア様……そんなにその男を好きになってしまったんですか…」
1オクターブ下くらいの声でブツブツとつぶやくリューレ。
「好き?!初対面の男性にそんな気持ちはありませんよ…!?」
私はあわてて弁解する。レファレイ様は確かに気になるけど……っ。
どんどん暗くなっていく部屋の雰囲気に耐えられなくなって、
「で、では、私は外に行って参りますね!」
と、適当なことを言って、この場から去る。
「私は…認めません…」
リューレのその一言は、私の耳には届かなかった。
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