高めの女子の集う場所

 扉を開けると、一気に空気までもがキラキラと輝くなにかに変わってしまうように感じるのが、このアイドル部の持って生まれた雰囲気である。

「あ、パイリァンちゃんだ! それにミケくんも!」

 たぶん部長かセンターか、とにかく部の中心とおぼしきひときわ華やかな印象の女の子が、吾輩たちを見るなり明るい声をかけてきた。

「わざわざウチに来てくれるって、入部の件、やっとOKくれるのかな~?」

 本人の承諾も取らないうちにパイリァンを抱きかかえて頬ずりする。むう、中身は金属で実はけっこうな体重の彼女をあっさり持ち上げるあたり、見た目はグラマーな美少女でもその実かなり鍛えていると見た。アイドル部、実は体育会系。

「そうじゃないんだけど……マスター、見なかった?」

 愛玩動物みたいな扱いに辟易しつつも、強引に引っぺがすこともできないのがこの子の性格。なんとか用件を切り出す。

「トイトイくん? 見てないよ~。 そっか、まずマスターにOKもらわないとだね☆」

 聞かれたことにはしっかり答えつつも、自分のペースに巻き込むことも忘れない。さすがセンター殿(推定)、押しが強い。

「あの……入部はしないと思う。アイドルとか、向いてないと思うし。わたし、引っ込み思案だから」

 どうにかセンター殿の手の中から逃れて、パイリァンは手近な机の上に立った。

「だいじょぶだいじょぶ♪ 性格なんて努力でいくらでも変えられるって! それかあえての陰キャアイドルも最近はアリだね☆」

 あくまでもアッパーにふるまうセンター殿の視線が、やおらこっちを向いた。あ、これはよく見覚えのある顔。

「ミケくんは? 入部はしてくれないかなー? ロボアイドルとか時代の最先端じゃん! それにウチ、男の子は弱いし」

「いえ、吾輩もそういうことは少々」

 じりじりと距離を詰めてくるセンター殿の背後から、部員が三人ばかり顔を出した。あ、これもよく見覚えのある顔。

「そっかー残念。でもちょっと気分だけ味わってみるのもよくない? ちょうど今度の新歓の衣装、余ってて☆」

「い、いえお気持ちはありがたいのですが! とにかくトイトイ殿がいないのであれば、吾輩たちは失礼させていただくであります!」

 これ以上この場に留まるのは危険だ。吾輩はわずかな隙を見てパイリァンを回収すると、急ぎアイドル部からお暇させていただいた。


「もうちょっとあそこにいてもよかったのに。アイドル部衣装のお兄ちゃん、見たかったな」

 ふたたび吾輩の肩の上に乗っかったパイリァンが、残念そうな声を上げる。

「それは断固お断りするのです」

 アイドル部の皆さんのあの顔、吾輩には嫌というほど覚えがある。あれはマスター達が吾輩を女装させる時の顔だ。したがって新歓の衣装とやらも、露出度バリバリ、下は超ミニスカートと相場が決まっている。命令コマンドでもないのにそんな格好をするのはまっぴら御免である。

「でもわたしたち、なんか人気あるね」

 アイドル部でちやほやされたのは、彼女の精神衛生的には悪くないようだった。雰囲気がちょっと明るい。

「まあロボは珍しいからモテるんだよ。それに、わざわざ不細工や悪い性格に造る人もいないだろうし」

 そう、自分で言うのもなんだが、吾輩もパイリァンも、容姿は整ってるほうだと<判定>する。とくに吾輩は「女の子みたいで可愛い」とよく言われる。だからしょっちゅう女装なんかする羽目にもなるんだけど。

「それより、アイドル部にいなかったじゃないか、トイトイ殿」

「GPSのトラブルかな? ……うん」

 しばし宙をさまよったパイリァンの視線が、体育系エリアの方角を見て止まった。

「モータースポーツ部に、いるかな」

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