色々な違いに戸惑っている

 ここにきて、一つの選択肢が頭をよぎる。それは、この草原に足を踏み入れるかどうかというものである。


 正直なところ、興味はある。こんなに男心をくすぐる機会など、30歳も目前で滅多に訪れることはない。本来あるはずのない場所に広がっているこの光景。そして昨日から頭を悩ませてくれている『ファンタジーの象徴』である存在。いっそ開き直って、この世界に飛び込んでみたくなる。


 しかし、ここで足を踏み出せないのがなんとも自分らしい。


 あまりにも心配ごとが多すぎるのである。

 

 例えば一度足を踏み入れたら、こちらの世界に戻って来れなくなってしまう可能性はないだろうか?どのような理由で、または条件で押し入れとつながっているのかわからないのだからこそ、いつそのつながりが解けてしまうかもわからないのである。その危険性を無視することはできない。


 また、大気などの影響はどうだろうか?この現実側と非現実側の境を越えた途端に空気が変わり、人が生きていけない環境だとしたら……。考えただけでおそろしい。未知の病原体もあるかもしれない。そういった意味では、こちら側から見ているとはいえ、影響が出ないか、一抹の不安が頭をよぎる。


 最後に、あの『流動体の生物』である。元々は『あいつ』の対策のみを立ててきたというのに、世界観がさらに大きいものになってしまったのだ。昨日会ったから妙な親近感を持っていたが、存在として一番不可思議なのは『やつ』なのである。それを自覚してみると、自然に足が止まるのを感じた。


 こうやって考えてみると、ゲームやアニメの主人公は勇気を持って、異世界に飛び込んでいる。正直なところ、こういった『異世界ファンタジー』は、最近の流行りであり、かく言う自分にとっても好んでいるジャンルである。しかし、実際に目の前にしてみると、簡単に足を踏み出せない自分がいる。そこには、明確に『創作物』と『現実』に違いがあり『ヒーロー』と『自分』に越えられない壁があるのだ。自分の『好奇心』は、『理性』に抗えないのだ。


 色々な違いに戸惑っている。


 元々、少年時代から早熟な方ではあった。好奇心に身を任せることなどほとんどなかったし、危険なことからは意識的に距離を置いていた。自分から何かにチャレンジをする訳ではないし、誰かがやっているのを真似て行う方が性に合っていた。効率的だと言えば聞こえはいいが、そこに『積極性』はないのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

石橋を満遍なく叩き、そして迂回する @study5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ