そして、作戦を実行する

 ふと、部屋の奥にある壁掛け時計に目線を移す。時刻は20時11分。この時間ならば、ホームセンターは閉まっているが、近くのスーパーに行って買い物をするくらいは余裕がありそうである。工具等を用意することができなくても、食料品ならば用意できる。


 ふぅ。ため息を一つ。


 いよいよ選択肢が絞られてきている。この目の前の『未知』に考えを巡らせているが、なんら解決には至っていない。また迷い続けるのも、スーパーの閉店時間を考えると、そろそろ決めなければならない。ついに時間の制限ができてしまった。あと10分。そこを、限界点としよう。


 まずは、何を買ってくるかである。王道を意識するのであれば、食料品となるだろう。それに、定番としては『甘味』が妥当なラインだろうか。

 チョコレート、プリン、和菓子も悪くない。これで『こいつ』を餌付けできれば、何ら問題はない。何事も無難が一番である。


 よし、方向性はこれでいいだろう。他には……。掃除グッズが欲しい。どう見ても、テーブルの上はベタついているだろうし、精神衛生上、除菌まで行いたい。幸いなこととしては、犬猫のように体毛には悩まなくてよいところだろうか。


 『こいつ』、除菌スプレーで死滅は……しないよなあ。それに、退治できたところで、後始末の仕方がまったく想像ができない。原型はとどめていられるのだろうか?これが完全に液体化してしまった方が面倒ではないだろうか。せめて風呂場に場所を移せれば、そのままシャワーで流せるのだが。


 さて、覚悟は決まった。買い物に行くことにしよう。

 

 もう一度壁掛け時計を見る。20時15分。21時には帰ってこれるが、自炊は諦めよう。ついでに弁当と缶ビールの一本でも飲みたい。


 そうして、わが家を離れた。




 どうしよう……。

 買い物袋を片手にし、帰路につく道中にふと脳裏をよぎる不安。


 なんだか、すごく不安なのである。さっき見た時より大きくなってたら怖いし、ドアを開けていなかったら、それはそれでどこに行ったか不安になる。寝ている間に、頭の上にいると思うと……。


 ここは、ドアの開け方を工夫しないといけないだろう。勢いよく開けて、威嚇と捉えられ

てもいけないし、ゆっくり開けたとしても『

あいつ』にマウントを与え、その隙をついてくるかもしれない。


 もし仮に、いなかったらどうしようか。こちらが友好的だとどうしたらアピールできるだろうか?買ってきたどら焼きを差し出せばいいだろうか?この時間から家の中を探し回るのも面倒だ。


 いてもいなくても頭痛の種となっている。


 ならば……。


 この数分間の考えをまとめてみた。『あいつ』への対策として、やっと自分の気持ちに決着がついたように思えた。


 そして、作戦を実行する。


 すっと方向転換をし、家とは逆方向に進んでいく。


 インターネットカフェで今日は寝ることにしよう。明日も朝早いことだし、週末になる。もう1日判断を伸ばしてしまおう。


 そうして、夜の街に足を運ぶのであった。


 この時、危機を回避したつもりでいた。より面倒なことに巻き込まれることなど、想像できていなかったのである。

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