第3話

翔太は、研究室の中では量子コンピューティング研究者として扱われていた。


しかし、翔太は別に量子コンピュータのことは何もわかっていない。なんとなく量子コンピュータっぽい用語を言って煙に巻いているのだ。やれ「qubitが足りないのでエラー訂正が難しく、計算があまりうまくいっていない」だとか、「ブッコローAIの最適化計算をするためのアルゴリズムがあまり無いから、新規でアルゴリズムを開発しないといけない」だとか、「まあ、ぼくは理論物理が専門だから、実験はしなくてもいいんだ」「これはこっちが使えれば解析できるかもしれないな」などと言ってお茶を濁していた。論文など適当にそれっぽく見えるものを印刷して、それを持ち込んで、研究をするふりをしていた。


しかし、翔太は、なんだかんだで量子コンピュータの研究者のふりをするための勉強をするうちに、意外にも全くの素人ではなくなっていた。そうしてふりをしながらブッコローの情報収集をしていると、美咲が話しかけてきた。


「いつもここで計算されていますよね」と、のんびりした口調で翔太の後ろから話しかける美咲。


「ああ、そうなんですよ」と翔太は返したが、びっくりして振り向いたせいで、コミカルなブッコローのウイッグが落ちてしまった。


美咲はそれを見て驚き、「あぁっ! 翔太くん! どうしてここに!?」と慌てた。


翔太は、美咲の驚きの表情に困り果てて、「実はね、僕、君のことが気になってこっそり潜入してたんだ。でも、潜入しているうちに、なんだかんだで本当に量子コンピュータのこともブッコローAIのことも勉強するようになって…」と、ことの顛末を告白する。


美咲は少し驚いたが、「でも潜入って、バレちゃったら、大変だよね? というか、犯罪だよね?」と心配そうに言った。


そして「まあそれはともかく、どうして返事を最近くれなかったの?私、結構メッセージ送ったのに、ずっとブッコローのスタンプだけだったよね」と美咲は続けた。


「僕は送ってたんだよ」と翔太は答えた。美咲はそれを聞くと、すべての点と点が繋がったかのように、深呼吸をしだした。「そういうことかあ……」とつぶやいた。


「何? いったいどういうこと?」と翔太は聞いた。


「実は私たちも最近、ブッコローの暴走に困っていたの。このままでは、日本人は、必ず本屋で書籍を買わなければいけなくなるのよ。電子書籍やSNSは…… でもまさかこんな事態にまでなるなんて……」


翔太は最近、本屋で書籍を買っていなかった。「だからか」と翔太はため息をついた。


ひとまず有隣堂書店で本を買った2人は、そのあと確認し合うようにお互いメッセージを送りあった。


「ちゃんと届いてる?」「届いてるよ」と送りあった。「ちゃんと連絡が取れて、意思疎通ができるって、すばらしいことなのね」と美咲は言った。「ほんとに。僕は自分がストーカーのような気分だったよ」と翔太は言った。「ふふふ」と美咲は笑い声を返した。


翔太は、ふと「月が綺麗ですね」と美咲にメッセージを送った。


美咲はそれを見て、カアッと顔が赤くなった。「最近の日本人はそんなこと言わないのよ」と言いながら、美咲も何かメッセージを書き出した。何か書いては消し、また何か書いては消し、そういうことを何度か繰り返して、何かのメッセージを送った。翔太はそれを見てにこりとした。


「あのさ……、ブッコローは……」と、翔太が口を開いて何かを言おうとした。


しかし、いつのまにか研究室にいたブッコローが2人の会話に割って入ってきた。オレンジ色の胴体を見せて、「こんにちはー」と、軽い調子なのにハッキリした口調で、翔太と美咲の2人に対峙した。


翔太と美咲が呆けていると、場にブッコローの「いや〜!おふたりは大変でしたよ〜!」という明るい声が響き渡った。


ブッコローの体には「本日の主役」のタスキがかかっていて、「究極超超完全ブッコロー状況」という文字が書かれたネオンサインが、有隣堂書店に掲げられていた。


翔太と美咲は、ブッコローと協力し、AIを改良し始めることになった。彼らの絆も深まり、新たなアルゴリズム開発に成功した。そして、世界中の有隣堂書店を全世界の人たちが利用するようになった。2人は共に成長し、これからも愛と情熱を持って未来を築いていく。ブッコローと呼ばれるオレンジ色のミミズクのぬいぐるみは、ますます国民の日常生活に欠かせない存在となっていった。

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究極超超完全ブッコロー状況 @kerorikku

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