14話
「は、はは…。
頭が痛い、というか。一周回ってふわふわする。現実を受け止めきれてない。
『ワタシは開花病ではないぞ』
自覚無いな?コイツ、いや開花病に自覚があるってなんだ?
「いや、開花病にしか見えねえんだけど」
『…ふむ』
何か考えるように、蕾が、ラニモンが少し下を向いた気がする。
『ワタシは
まだ何も言っていないのに、
『開花病は人間に寄生し、誘惑し、身体を乗っ取る。だが徒花は違う、人間と共生するんだ』
「…意味わかんねえ」
『事実を述べただけだ』
『身体を完全に乗っ取るために、欲望を歪んだ形で叶え、精神を壊そうとする奴がいれば、人間をただただ見ているだけの
この中だと傍観花が多そうだ、なんとなく。放し飼いは、
「なんで植物がそんなことできるんだよ、植物に知性なんか」
『そこら辺はワタシもよくわからんが、こうしてオマエと話すことができているんだ。現実を受け入れろ、ハルアキ』
「そうですか、そうですね、って受け入れるワケねぇだろ!無理だわ!」
『トイレでそんなに騒いでいいのか?』
「こんなん騒ぐに決まってんだろバカ!やっとなんか理解出来てきた気がするわ!!」
「──で、ここら辺。あの先生のことだから多分、中間テスト出るよぉ。赤線引くだけじゃダメだからねぇ?」
さっきの、ラニモンの言葉が本当なら。開花病の奴の一部が、乗っ取られているなら。
…段々気味が悪くなってきた。
『この本は面白いな』
ラニモンは裾下から蔓を伸ばし、教科書を捲っている。心做しか、楽しそうに見える。心臓がいつもより、二倍くらい速い気がする。別に、見た目が開花病だから隠さなくていいかもしれない。開花病ではないと、気づかれたらどうなるか。…いや、開花病と全く同じ見た目の病、徒花?なんか聞いたことないし、疑われることは無いか?
「…ただの教科書の何がおもしれーんだよ。つーかどうやって読んでんだよ、俺の服ん中だろお前」
『知識を蓄えれば世界が広がって、面白いと思えることが増える。だから面白い。後者の方は、オマエの脳を少しだけ弄って、ワタシにも視覚情報が来るようにしているだけだ』
俺の視覚無事かそれ?
『失明したりはしない、安心しろ』
思考まで現在進行形で引き抜かれているのか、声がやや笑っている。
「考えてること読むんじゃねーよ、心臓から活動範囲広げるんじゃねーよ殺す気か…!」
『オマエは
「ふわふわしやがっておめぇ…!」
拒絶反応について聞こうとする前に。
つんつん、と。誰かに優しく腕を突かれた。書き写しを終えた灯護が、シャーペンの後ろ側で突いてきている。
「
「げっ…わ、悪い」
瓶子先生がニコニコと、楽しそうにこちらを見ている。
今の俺は、妖精に小声で話しかける
…でも思考読むんだったら、普通に無言で、頭の中で話せば行けるんじゃねえの?
『ハッ、
舌上まで上り詰めてきた言葉を飲み込んだ。ラニモンを引き抜こうとしても、叩いても、結局痛いのは俺なんだ。それに「痛いな」なんて、棒読みで済ませるくらいだし。本当は痛覚なんて無いんじゃないのか?
『ま、脳に留めたままにしている言葉より、口から出る言葉の方が大切だろう。普通伝わらんからな、発してくれた方がワタシは』
「
ラニモンは大人しく服の中に隠れた。別のページが開かれっぱなし。戻しておけばよかった、と言うかラニモンお前が読んでたんだから戻しとけや。…でも遅い。
「あららぁ、せっかちだねぇ、その辺りは近々やるよ」
ポン、と頭に手を置かれる。興味津々だねー、勉強意欲あるねー、なんて思ってないだろう。とても優しい笑顔なのに圧を感じた。
「あ、触っちった、ゴメンネ」
「…ッス」
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