8話
後ろへ力強く引っ張られ、嫌でも目を開けた。今度はなんだ、また別のバケモンか!?
「はぁ…危ねぇ、セーフか」
結構な勢いで尻もちをつくが、蔓で痛めつけられるよりマシだろう。ひらりとトレンチコートをはためかせ、中年くらいの男が隣に立っていた。
「…誰よあんた、邪魔しないでよ」
「お前さんみたいな奴の邪魔をする仕事をしてんだよ、俺は」
手を見れば男は拳銃を構えている。
「ああ、好みじゃない…あんたから先に殺ってやる」
蔓は凄まじい勢いでこちらへ伸びてくる。連続した発砲音が耳を刺す。
伸ばされた蔓が緑から、茶色に変わっていた。勢いを完全に失い、千切れ、ぼとりと地に落ちる。俺も、OLだって驚いた様子で見ているが、トレンチコートは意地悪そうに笑っていた。
てっきり彼が持っているのは警察用の
「痛い、痛い痛い痛いっ…!なんなの?!なんなのよぉそれぇッ!」
「俺が長ったらしく、
「クソが、クソがクソが、クソッタレが!」
別の蔓がまたトレンチコートへ伸び、銃声が辺りに響いた。反射的に閉じてしまった目を開くと、OLがぶっ倒れている。
「ははっ!一発で潰したなァ」
こめかみに生えている黄色い花がしおしおと、色を失っていく。
「腕を上げたな、
「何やってんすか
暗緑のスーツを着た
「君、無事か?」
花曇と呼ばれた人が手を差し伸べてくるが、腰が抜けて動けない。「あ」と小さく声が漏れ出す。
「無事だが、大丈夫じゃあなさそうだなァ」
「地面汚ぇ…汚いから、とりあえず立って」
ケタケタ笑う名残さんを、彼は少し睨みつけていた。手首を掴まれ、強引に立ち上がることになる。骨張ってて、大きくて、ザ・大人って感じの手。パッと見は大学生くらいの見た目なのに。
「今回は結構危なかったみたいなので許しますけど警部!置いていかないでくださいって、いつもいつも、いっつも言ってますよね俺?!探すの大変で大変で、スマホにGPS入れて、ダッシュして…!」
「おぉ、そうだったな」
全く反省していないご様子。花曇さんを見れば、青筋が浮かんでいた。相当この
「お前さん、飴は好きか?」
頷くと名残さんから
「そういや名乗ってねえな、失礼。俺ァ
ぱかりと警察手帳を開き、見せてくる。「所属同じく、巡査部長の花曇です」と言って、暗緑スーツの男も向けてきた。花曇
「君の名前、教えてくれますか?」
「あ、俺は
──プシュリ
そんな耳馴染みのない音が聞こえた直後、左胸に痛みが走る。
「き、ッ」
膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れそうになるが、どうにか仰向けになれた。今にも意識が飛んでしまいそうだ。胸になにを刺された?なにを撃ち込まれた?
「っは、そっちか!」
「しっかりしろ!」
首を横に向けると刑事たちがやって来た方、彼らの後ろで何か、恐らく
得体の知れないものが、胸から体に流れ込んでくる。暑くて、熱くて、異物感が半端ない。死ぬという感覚は体験したことがないが、死の直前はこういうものか。妙に納得してから、瞼が落ちる。
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