6話

「こんにちは、フルーツサンド二つで」


「はぁい、お金丁度。また来てねぇ春章くん、お友達も」


「もちろんです、ありがとうございまーす。ほら、灯護」


 優しそうな店員さんから受け取り、灯護に一つ手渡した。苺、キウイ、パイナップル、葡萄、蜜柑、林檎。程よく甘い生クリームの布団、そこへぎゅうぎゅう詰めにされたうえ、挟まれている。初めて食べた時はポロポロ中身を落としてしまったが、コツを掴んで、今では一つも落とさなくなった。プロと言っても過言じゃないだろう。 二人でゆっくり、歩き出した。


「あいつも、これ好きだったな」


「毎日ほど買っていたな、奴は」


 好天の日曜日。友達と、人の少ない商店街をぶらぶら彷徨っている。勇気を出して、灯護とうごを突然呼び出した。


 昨日は親友が死んだと連絡が入ってからぼーっと、なにもせず、なにも出来ず過ごしてしまった。眠ればいつも通りなんて、夢みたいなことは起きなかった。

 母親曰く、「墨生すみお茉白ましろを殺したようにしか見えなかった。あんなに仲の良かった二人が、そんなことになるなんて信じられない」と。俺だって信じられない、そんなの信じたくない。兄妹か恋人か疑うレベルで距離が近くて、仲の良かった二人が。墨生はまだ俺と同じ高校二年生、妹の茉白ちゃんは中学二年生。人生分からぬものだ。


「春章、そう深く考えても──おっ、と。本当に危ないな、このフルーツサンド。しかし美味い。奢りでいいのか?」


「いーの、急に呼んだの俺だし」


 灯護は力を入れすぎているのかクリーム、蜜柑、ついでに苺が押し出されて落ちそうになっていた。俺は何事もなくフルーツサンド食べ切り、持ってきていたティッシュで口の周りを拭った。大きく口を開けて食べてしまうから、すぐクリームやらソースやら、色々付いてしまう。姉貴に小学生みたいな食べ方だと昔言われた。


「ところで。お姉さんの分、買わなくてよかったのか?」


「あ゛ー……あの人ダイエット中」


 プリンを食後に食べようとしたら、鮫とか虎のような、捕食者かと思うくらいギラついた目で睨みつけてくる奴だ。持ち帰ったら殺されるかもしれない。


「はぁ、あのままでも十分綺麗だと思うが」


「本人に言ってやってく、れェッ!?」


 美味しそうにフルーツサンドを頬張る灯護を見ていると、なにかに足を引っ張られ、盛大に転んだ。


「何やってんだ春章?」


 両足に蔓が絡まっていた。どこから伸びているのか、特定しようと目が動かす。近くの人間からじゃない。そこまであるなら、髪のように切ったり、まとめたりするだろう。蛇やミミズのようにうねり、蔓は路地から伸びていた。


「棘とかなくて良かったな、今外すぞ。開花病の主はどこだ?」


 ずるり、ずるりと足を引かれる。シャッターが閉められた、人気ひとけのない路地の奥へ、奥へと。


「待て!」


 灯護が蔓にしがみつき、俺を解放しようと奮闘している。お構い無しに、蔓は俺たちを引き摺っていく。焦ってか灯護は強引に、蔓を引き剥がそうとしていた。 ビクともしていないようだが。


「こんっの、クソ!」


「待て!そこ引っ張んなイデデ!!」

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