第225話 シノさんが教える魔族とは

 王国歴165年2月21日 ノイエラント レオンシュタインの小屋にて――


 レオンシュタインは、ティアナを派遣したことをずっと後悔していた。

 魔族との戦い方が分からない中、魔法攻撃のできるティアナを安易に派遣して良かったのか。

 いつも自分の横で、笑ったり、怒ったりするティアナがいないのは、どうにも物足りない気がするのだった。


「レオン様、何かお悩みですか?」


 シノが朝餉をレオンシュタインの前に置きながら、心配そうな目を向ける。

 ティアナたちをシキシマに派遣してからというもの、レオンシュタインは明らかに元気がない。

 せっかく作ったポトフと粥が所在なさげに湯気を上げている。


「シノさん、魔族ってどんな生きものなんですか?」


 すると、シノは手を伸ばしてレオンシュタインの鼻をそっと摘む。


「レオン様、食事の時は食事を楽しみましょう。魔族のことは、食事の後、シノが教えて差し上げます」


 レオンシュタインはようやく笑顔を見せると、粥にスプーンを入れ、そのまま口に運ぶ。


「熱!」


 まだまだ、温度が下がりきっていなかった。

 思わずスプーンを粥に戻すと、シノがそれを手に取る。

 そっと粥を掬うと、口元に寄せ、ふうふうと息で冷まし始める。


「ちょ、シノさん!?」


「レオン様の元気が出るようにシノが食べさせてあげます。はい、どうぞ」


 笑顔が眩しいが、さすがにそれはどうだろう。

 躊躇していると、シノが悲しそうに俯いてしまう。


「レオン様は、ティアナさんなら食べるんですよね。シノに食べさせてもらうのは、お嫌いなんですよ……ね?」


 たもとで口元から目を隠し、涙を浮かべる。


「いやいやいや、そんなことないよ。じゃ、じゃあ、食べようかな」


 その瞬間、シノは新たに粥を掬い、息を吹きかけてから、自分の琥珀色の唇につける。


「はい、熱くありませんよ。さあ、どうぞ!」


 ますますハードルを上げるシノだった。

 しかも、目力で食べるように圧力をかけてくる。

 逃げ場のないレオンシュタイン。


 その瞬間、呆れたような顔をした人物が開いている扉をノックする。


「イルマさん」


 イルマが無言のまま、つかつかとレオンの横の席に歩いてくる。

 そして、もう一本あったスプーンを粥に突き刺して掬い、そのまま口にくわえる。


「シノ、この粥、冷ます必要あんの?」


 シノは、なんで来たの? という気持ちを目で表しながらも、


「あらあら、粥がすっかり冷めてしまったようですね。今、新しいものをお持ちします」


 そういって席を外すのだった。


あるじ


 イルマは非難の目でレオンシュタインを見つめる。

 理由はよく分からないが、なぜか謝る羽目になってしまったレオンシュタインだった。


 3人でぎこちなく朝食を食べた後、シノは魔物についてのレクチャーを始める。


「シキシマでは、何年かごとに魔族が現れ、被害が出るのです」


「被害って、魔族は人間を食べるのか?」


 イルマの疑問に、食べるときもあるし、繁殖に使われることもあるとシノは答えた。


「繁殖?」


「ええ、魔族同士では子供ができにくのです。そのため、魔族と人間との間に子供をなすことが目的のことが多いです」


「子供? 子供ができたら、それを人間が育てるのか?」


「いえ、生まれるときに腹が裂けてしまい、母親は死んでしまうのです」


 イルマは思わず自分の腹をさすりながら、言い伝えにある魔族が実際に活動している事実に戦慄を覚える。

 レオンシュタインは、震えているイルマの手に自分の手を重ね、大丈夫だと安心させる。


「どうやって魔族を見つけるのかな?」


 レオンシュタインはそのことを、是非、確かめておきたい。

 その疑問に、シノはそもそも魔族は人間に擬態していることがほとんどだと伝える。

 そのため、見破るのはとても困難らしい。


 続けてシノは魔族の特徴を挙げていく。


「魔族は目に特徴があります。瞳孔が丸ではなく、縦になっています。といっても、ほとんど気付きませんね。そのほかは、聖水や魔封じの香が苦手なことと、呪怨師じゅごんしに見破られます」


「呪怨師?」


 呪怨師とは魔族や鬼を払い、それらを封じ込めることを生業にしているものだとシノは2人に教えてくれた。

 これまでの話から、レオンシュタインは魔族対策の必要性を強く感じた。


「ノイエラントでも出ないとは限らない。まずは呪怨師に合う必要があるね」


 そう言っていた矢先に、シキシマに派遣していたメンバーと呪禁師アリカタが村に到着し、村長の館にやってきた。

 しかし、そのメンバーの中にティアナがいないのだった。

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