第66話 褐色はお好き?

 髪はふわっとしたセミロングで、銀色と白が混じっているため、遠くからでもよく目立つ。

 目は大きく、やや上がり気味の眉毛が意志の強さを感じさせる。

 身長はレオンの肩までと同じくらいで、幼い顔つきと胸のアンバランスがまた魅力を高めている。

 通りを歩けば誰もが振り返るような美少女だった。


「今まで、弟のために生きた。でも、これから……お前のために生きる」


 ティアナの仮面の目が、ぎらりと光を放つ。


「は?」


「お前について行く」


 ティアナの頭から怒りの電光が発せられる。

 黒い仮面が青ざめるように光が反射し、空気が感電でしているような感じが伝わってくる。


「盗賊と一緒に旅なんて、何の冗談?」


「大丈夫」


「大丈夫な訳ないでしょ。毎日、落ち着かない!」


 少女はティアナを指さしながらきっぱりと言う。


「お前ではこいつが心配。現に金を盗られている」


「お前が言うな!」


「言う。私なら盗らせない」


 ティアナの全身から雷光が発せられる。

 明らかに上位魔法を発動する気だ。

 このままでは、街に被害が出かねない。

 レオンシュタインはティアナの肩を掴み、必死になだめながら少女に尋ねる。


「弟さんはいいのかい? 病気の時に身内が側にいないと悲しいだろう」


 それを聞き、ややうつむき加減になる少女だが、すぐに顔を上げて話し始める。

 弟はずっと看病してくれた姉に、自分の人生を生きてもらいたいと話したらしい。

 何年も弟のために無理をしてきた姉に、思うところがあったのだろう。

 それでも躊躇う姉に、いろんな場所の話を聞かせてほしいと、ベッドから手を伸ばし、背中を押してくれたのだそうだ。


「君の名前は?」


「ヤスミン」


「そうか。ヤスミン、1つだけ約束してほしい。もう誰のお金も盗らないでくれ」


 レオンシュタインはヤスミンに強い口調で話しかけた。

 その真剣なまなざしにヤスミンは守ることを誓う。


「盗みは止める。お金を稼ぐ」


「えっ?」


「この街は稼げない。別の街でお金を稼いだら少しずつ返す」


 ティアナは少し安心し、雷光を収めていた。


「そう、今まで迷惑をかけた人にお金を返すに一緒に行くのね」


を強調しながらティアナは答え、ほっとした口調になる。

 レオンシュタインはうれしそうに一緒に行こうと答えた。


「それに」


 ヤスミンはレオンシュタインを正面から見つめ、話を続ける。


「お前の……身の回りの世話をする」


 ティアナの近くの木に突然、雷が落ちる。

 けれども、口調はいたって冷静なまま、ティアナは返答する。


「いいえ、レオンシュタイン様の世話は私に一任されております。どうぞ、お気遣いなく」


 抑えた口調を聞き、レオンシュタインは気が気ではない。

 けれどもヤスミンはレオンシュタインの目を見て、側に寄り、両手でレオンシュタインの右拳をそっと包む。


「ずっと側にいる」


 その瞬間、轟音が響き、周囲の木々がすべて倒れてしまった。

 水面もビリビリと揺れ、地面のクローバーはすべて炭化し、空中に舞い上がる。

 見るとティアナの髪の毛が空中に浮き、手に稲妻が光っている。

 けれども、ヤスミンは全く動じず、右手でレオンシュタインの頬を優しく触りながら、


「おまえ。褐色の女、嫌いか?」


 と、語りかけてきた。


「い、いや、嫌いかって言われましても」


 レオンシュタインは焦って、助けを求めて周囲を見渡す。

 けれども、頼みのティアナは激怒したままだった。


「あいつより、女らしい」


 ティアを指さしながら、ヤスミンはレオンシュタインにさらに接近する。


「胸。大きいって言われる」


「そこまでよ」


 ティアナが二人の間に入りながら制止する。

 レオンシュタインはヤスミンとティアナから、すぐに距離を取る。

 もはや厄災が避けられそうもない。


「正体を現したわね。盗人家業が生業なりわいなら、男を手玉に取るのも訳ないはずよね」


「そんなこと、しない」


「嘘! 『慣れてます』って雰囲気出しといて、何言ってんの!!!」


 もはや何の話をしているのかレオンシュタインにはついていけない。

 少しずつ後ずさりをする。

 二人は向かい合いながら、互いを罵っている。


「胸がない女に言われたくない」


「あるわよ。すっごい綺麗なのが」


「あの崖より、垂直」


 その瞬間、その指さされた崖は轟音とともに崩れ落ちてしまう。

 ティアナの上位魔法が、崖の周辺をすべて破壊し尽くしてしまった。

 もう、この混乱を収めるすべはないと思ったレオンシュタインは、すぐさま逃げ出すことにした。


「レオン!」


「マスター」


 二人とも同時に声を出し、急いで後を追う。

 逃げながらレオンシュタイン普通の旅がしたかったと痛切に思う。

 一人は傾国の美女、一人は褐色の美少女。

 前途を思うと多難しか感じないレオンシュタインだった。

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