第3話 そのミミズクは神の使い

「起きろ! もう日はすでに昇ったぞ! いつまで寝ている! 怠け者! 起きろ!」

 どうも頭のまわりがうるさい。

(うるせーな、たしか目覚まし止めたよな…)

 浪人一日目の朝だ。もう少し寝ていたい。気だるい気持ちで目覚まし時計をごそごそ探していると、ぶちぶちぶちっ!!

 頭に激痛が走った。

「痛ってえ! なにすんだよ!」

「やっと起きたか、怠け者め。早起きは三文の得という言葉を知らないのか」


 がばっと彼は体を起こした。ここは彼の一人部屋で誰もいるはずがない。母親にも勝手に入るなと言ってある。驚いて声のした方を向くと、そこにはオレンジ色で手のひらくらいの丸っこい鳥らしき物体が二つの目玉をギョロつかせ彼を睨んでいた。そしてそいつのちんまりしたくちばしには十数本の毛束がくわえられていた。

「なんだ、お前?! オレの髪の毛むしったのおまえか?!」

「お前とはなんだ、失礼な。ワタシはピーッ様の使い、気高いミミズクの愛在美衣仏呼朗ああるびいぶっころうである」

 まんまるのオレンジ色はふんっと羽を膨らませて名乗った。

「ピーッ様? あある…なんだって?」

「愛在美衣仏呼朗! 神の使い、気高きミミズクである!

 分からぬなら書いてやろう」


 まんまるの鳥がふんっと再びオレンジ色の羽を膨らませると、急に部屋の空気が一点に集まってきたような気がした。それから空気の一点から風が吹き出してきたかと思うとすうっと宙に掛け軸が現れた。そこには「愛在美衣仏呼朗」と達筆な筆文字で書いてある。そして親切なことに「ああるびいぶっころう」とふりがなが振ってあった。

(ああるびいぶっころう…なんだこの夜露死苦みたいな名前は)


「どうだ、ワタシの素晴らしい名前は。しかも妙々たる字であろう。ワタシが書いたのだ。名前の意味は愛が在り美しい衣をまとい、それゆえに仏にも朗らかに呼ばれる、という意味だ。ワタシはピーッ様にお仕えしているがワタシほどのミミズクになると神にも仏にもひっぱりだこなのだ」

(駄目だ。オレ、ショックすぎて頭ヘンになっちまったか。神にも仏にもって…おかしいだろう。しかもピーッ様って放送禁止用語かよ)


「そうか、素晴らしすぎて何も言えないか。まあ仕方あるまい」

 胡散臭いですね、とも言えず彼は違う質問をした。

「ミミズク、なんですか」

「そうだ。ワタシはピーッ様より遣わされた気高きミミズクである」

(気高いっていうよりたんにエラそうなだけじゃ…)

「それでオレに何の用ですか。オレ寝たいんですけど」

 すると神の使いのミミズクはおおげさに短い首を振ってため息をついた。

「まったくオマエは自分の願ったことも忘れたのか。そんなことだから郁さんとやらとの恋も叶わぬのだ」

「?!」

「オマエの願いはピーッ様に聞き届けられた。ワタシはピーッ様の命によりオマエの願いを叶えに来た」

「本当かブッコロー!! それじゃあ郁さんをオレの彼女にしてくれ!」

 するとまんまるミミズクはあからさまに馬鹿にした目で彼を見た。

「そんな他力本願の甘ったれたことを言っているからいつまでも結果が出ないのだ。そんなオマエに良いところに連れて行ってやろう。今から出かけるから支度しろ。それとワタシの名前を略するな」






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