第2話 飛んでいく千円札
母親の勢いに流されて、なんとなく学校の裏の方に来てしまった。とりあえず足の向くまま適当に歩く。これで神社が見つからなかったら、神社に行かなくても母親には言い訳できる。
そういえばこっちのほうまで来たことがなかったとふと思った。彼は帰宅部で用がなければすぐ帰っていたし、誓いを立ててからは勉強のために即帰っていた。このあたりのことを知らなくて当然だ。
5分ほど歩いただろうか。小高い丘があらわれ石畳の階段が上へと続いている。彼がその先に目をやると鳥居が建っているのが見えた。母親の言うナントカ神社はあれだろうか。
階段の段数はたいしたことはなさそうだ。ただ階段というだけで運動不足の彼はうんざりしたが、傷心の身でここまで来たのだ。行くだけ行くか。彼は重い足取りで神社を目指して上り始めた。
いざ上ってみると思ったより傾斜がきつい。息も苦しくなってきた。受験のために部屋に引きこもって勉強した結果がこの体力のなさだ。しかもすべった。しかも…。なんだか泣きたくなってくる。泣くかわりにきつい階段に悪態をつきながらようやく鳥居のところまできた。
鳥居は石でできており参道の先には小さな社殿があった。
(こんな神社あったんだ)
小さいわりに参道はきれいに掃かれており、植えられた樹木も剪定されているようだった。町内会か市がちゃんと管理しているのだろう。日が傾きかけた神社には人気はなく、ひっそりしていた。もうすぐ訪れる夜気のせいか彼は一瞬身震いした。さっさとお参りして帰ろう。彼は賽銭箱へ向かった。
(百円でいいよな)
小銭を出そうと財布を開いたときだった。
春の気まぐれな気圧配置のいたずらか、射るような風が吹き一瞬のうちに彼のたった一枚の千円札をかっさらって賽銭箱へ落としていった。
(あー!!! オレの千円札!!)
我を忘れて賽銭箱を覗き込んだが、ブラックホールのような暗闇が見えるだけだった。万が一、千円札が回収できたとしても彼は賽銭泥棒である。どうしようもない。彼は諦めるしかなかった。
(オレは呪われているんだろうか…。高島易断とか占いとか見た方がいいのかな…)
出てこない千円札を悔やんでも仕方がない。彼は千円分の願いをすることにした。
(郁さんと仲良くなれますように!! 志望校に受かりますように! 母さんがこづかいを上げてくれますように! 胸板厚くなりますように! 将来ハゲませんように! モテたい! 夕飯が焼肉!…etc.)
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