第三話『異種格闘技戦のような出会い①』
無事に追放された私は、ベドガー王国、王都の中心街へと向かっていた。
特に理由があるというわけではなく、唯単に、人口が多ければ多いほど自分にとって面白いことが起きるかもしれないと思ったからだ。
都会の住宅街や商店街の光景などは、馬車で通るときに何度も見慣れたものであったので特に目新しくはなかった。
とはいうものの、大通りを自分の足で歩いてゆっくり進むというのは、中々感慨深いものがあった。
しかしここで、少し問題が起きてしまった。
アッサム通りに入って、道行く人の数も多くなってきたときだった。
これからどうしようかと街中を歩いていた所、珍妙な格好をした男の人の姿見えたので私から”挨拶”をしたのだ。
筋肉質な青年が4人。
ちんけな鎧や、青白く光った謎の革で出来た服装、腰に差した物騒な凶器……。
一般市民は彼らの存在に何ら違和感を覚えていない様子なので、彼らはただの変質者などではなく、ただのピエロか何かだろうと結論づけた。
最初、彼らは私から話しかけられたことに喜び、顔を赤らめていた。
しかし何回かの応答を繰り返していく内に、段々と不機嫌になっていった。
好奇心ゆえの可愛らしい質問だったのだが、何かが気に入らなかったようだ。
聞くところ、彼らは道化師(ピエロ)ではなく、”ぼーけんしゃ”と呼ばれる謎の職業に就いているようだった。
日々、無抵抗な動物をわざわざ狩りにいったり、郊外の原っぱに落ちている光ったゴミなどを集めてギルドに納めることで、何とか日銭を稼いで暮らしているらしい。
ついでに”迷宮(ダンジョン)"と呼ばれる地下世界にも行っているようだ。
――――実はこの迷宮に関しては、以前少しだけ耳に挟んだことがあった。
「つまり……貴方たちは、だんじょん、と呼ばれる地下世界にいったりきたり……するのですね?
休日でもおかしな服を着用しながら原っぱにお出かけをして、更に動植物を狩り尽くしてお小遣いを稼ぎ……そしてついでに光るゴミも集めていると……。
驚きました。なんということでしょう!
まさか平民にそういう職業があったとは思いもしませんでした!
しかし、その、何でしたか、ぼーけんしゃ……? 楽しい…でしょうか」
純粋に、楽しいのであれば私もやってみようと思って聞いてみたのだが、この私の言葉は意図せぬ反応を産んだ。
「光るゴミじゃねえ! 魔石だ! こんな不快な奴初めて会ったぞ!」
なんとこのおかしな青年達は急に激怒してきた。
「ああ、魔石……石ころを集めているのですね。すばらしいですね。
石ころであれば、私の家の庭園にたくさん落ちていましたよ」
私は光るゴミの名前を知ることができて嬉しく思った。
「もう許さねえ! ふざけんなお前、何様のつもりだ!!」
と、遂に私めがけて拳を振り抜いてきた。
瞬間的に私は目を閉じた。
ただ質問をしただけなのに、人から暴力を振るわれる。
これもまた、一興かもしれません。
そう覚悟をしたが、無礼な拳が私に到達することはなかった。
「大丈夫ですか」
その男性の声がした。
恐る恐る目を開けたとき、視界の中には中肉中背の男性の方が映った。
黒に青みがかかった髪色に寝癖がついていて、気だるそうな目つきに水色の瞳。どこか眠たげな顔つき。
服装は一般市民とまるで変わらず、あまり強そうには見えなかったが、彼が私を助けてくれたのは事実だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺は先ほど、S
勢いのままギルドを飛び出して街中に出てきたものの、今日はやることが全く無かった。
「一から冒険者をやり直そうかな……」
とため息をついた。
「今さら人を集めたところでなあ」
今更、新しく人を集めてパーティーを作ろうとしても面白くない奴らしか集まらないだろう。
俺の力と知名度にあやかろうとしている連中とは仲良くできる気にもなれないし、当面の間はソロで活動しよう。
そう思った俺は、とりあえずぶらぶらと街中を散歩することにしていた。
15分ほど経ったとき、アッサム通りの遠くの方でガヤガヤとした声が聞こえてきた。
だが『まあ良いか』と思い、それを放っておいて、飯を恵んでくれそうな飯屋を探すことにした。
そんな俺の姿に気付いた近所のおばさんが「騒ぎになりそうな気配がある!」とヒステリックな声をぶちかましてきた。
そんなわけあるか、と思いながらも、結局よくわからないままに腕を引かれて人混みの中へ連れて行かれてしまった。
おばさんの言う現場から少し離れた位置に到着して、観察してみると確かに危なげな様子であった。
顔はみえないが貴族っぽい女性と、冒険者であろう男四人組がいた。
男側は明らかに不機嫌そうなオーラを纏っていた。
流石に手を出すようなことはないだろうと静観していたのだが……。
「ふざけんなお前、何様のつもりだ!!」
なんと激怒した男が、その怒りに任せて手が出てしまったのだ。
「ッ……!」
俺は考える間もなく、光の速度で距離をばっと詰めて、女性と暴漢共の間に無理矢理入った。
人混みを縫うように避けて距離を詰めていくことは、実に簡単な事なので加速系の
そして女性に向けて放たれた拳を、暴漢の手首を捕まえて受け止めることには成功した。
「大丈夫ですか」
俺は目を閉じて未だに固まったままの女の人にそう言った。
齢は俺と同じくらいかもしれない。
暴漢が近くにいるのでそこまで彼女を凝視する時間はなかったが、一般市民ではない服装と雰囲気を見るに、やはり貴族であることは間違いないようであった。
「何だてめ……のッ、ノリタケさん!!?
お忙しい筈なのにどうしてこんなところに」
その暴漢の怯えた声を聞いて、俺はぱっと相手の手首を離してしまった。
ついでに『忙しくなくなったからだよ!』と言い返したかったが、そんなことよりもかなりの衝撃を受けた。
「お前、嘘だろ…」
暴漢の顔を見て二重に驚いた。
よくみたら、知り合い……それどころか俺の後輩だったのだ。
暴漢の名前は確かアベルだった。
彼らは……パーティー名の方は忘れたがそれなりに面識のあるC級冒険者パーティーの後輩達であった。
俺が固まっている隙に、周囲からは『”金線”だ!』『ノリタケだ!!』という叫び声が聞こえ始めてきた。
まずい。
周りの一般市民達が俺の存在に気付いてざわつき始めた。
変なことを噂される前にさっさと場を収めて退散しなければ。
そして……。
「なにやってんだお前ェ! この街で暴力は御法度だろ!
兄貴達に殺されたいのか!?」
俺は青い顔をしながら、後輩の肩をゆさぶって怒鳴り散らした。
当然彼らのことを心配して、である。
頭に血が上っていた彼も、事の大事さを理解してきたようでガタガタと震えていた。
実は彼と同じように、俺も本当に色々と動揺していたのだ。
未だにこの状況が信じ切れなかった。
この街はとある理由によって、異常に犯罪発生率が低いのだ。
不良に片足をひっかけた男がナンパすら戸惑うほどに。
そして場所も問題だ。
この周辺は超大型ギルド【KPM】のお膝元である。
こんな場所で女性に手をかければ、自分がどうなるかなど荒くれ者ならば、ましてや冒険者であれば誰もが理解しているのに……。
「どうしてだ…アベル……お前。絶対そんなやつじゃなかっただろ…」
「すいません。すいません。すいません…」
と彼は謝りながら遂には泣き始めてしまった。
「違うんですよ!
この女が俺達のことを散々馬鹿にしてきて、それで!」
ともう一人の仲間が、俺とアベルの間に割って入ってきて彼をかばう為に男らしくない言い訳をしていた。
そんな姿を見て哀れに思った。
ここで俺の中で、『どうして彼らはここまで道を踏み外してしまったのだろうか』という純粋な疑問が浮かんできた。
すくなくとも以前出会ったときは、多少気が荒いものの、弱きを助け強きをくじく純粋で真っ直ぐな人間であったはずなのだ。
だがそんな彼らの奇行も、彼女の容姿を改めて見ることで若干理解できたような気がした。
貴族っぽい女性の人が信じられないほどの美少女だったからだ。
御伽話に出てくるお姫様をそのまま現実に写したかのような美少女だった。
よく手入れがされた水銀の波のような長い髪。
氷のような冷たい眼差しに、ミステリアスな目の色合いと青紫色の瞳。
整った鼻筋から口元にかけての透明感がある肌の色艶。
メリハリのある肉体と圧倒的なスタイルの良さが、いとも簡単に高貴なドレスを着こなすことを可能にしていた。
前髪には銀細工だろうか。
黒炎のようなチューリップの髪飾りが留められていた。
この辺ではよくみない物なので印象的であった。
完全に流れが読めた。
彼らは……最近、冒険者として良い感じに軌道に乗り始めたので、調子に乗ってしまったのだ。
そんな折、銀髪美少女が目に入った。
ナンパでもしようとしたところを無惨にも振られて、逆上して襲い掛かろうとしたのだ。
この町では珍しいことだが、この世界では起こり得る話の一つであった。
今回被害を受けそうになった女の子には申し訳ないが、一人で出歩いていたらそりゃあ襲われるだろうなと、納得を受けた。
アベルを含めた三人がひたすら俺に謝り続けている中、
「信じて下さいよぉ! ノリタケさん!!
この女がいきなり話しかけてきて、馬鹿にしてきたんですよ!」
と、後輩の一人が未だにそう言い続けていた。
「馬鹿野郎!! こんな綺麗な人がそんなことするわけないだろ!」
と俺はもういちど怒鳴って、人の道を外れてしまった後輩達の後頭部をいっぺんに殴り飛ばした。
頭に大きなコブができて、道路脇の地面に倒れ伏して気絶した後輩達を尻目に、とりあえず問題の女性の人に謝り倒すことにした。
まじでこの人が貴族なら、大問題になりかねない。
ここは先輩としてどうにかしなくては。
「いや~~なんかすみませんね~~。 ね~~~~。
本当に、俺の後輩達が!
彼らも悪い奴じゃないんですけど。冒険者は気が荒いですからねえ…。
彼らはこっちの方で根性をたたき直しておくんで!
ここはひとつ、穏便に……」
と俺は頭をさすりながらぺこぺこと平謝りをした。
パーティーを追放されたから金も何も出せないので、場合によっては土下座というカードも切らなければならない。
集まり始めていた民衆の中から『S級冒険者が謝っているぞ!』
という叫び声が聞こえてきた。うざい。
「ありっ、が………良いですよ。
彼らも、日々の暮らしで色々なものをためていたのでしょうから」
彼女は最初に何かを言おうとしていたがよくわからなかった。
しかし、その言葉通りそんなに怒っていないようなので、俺はめちゃくちゃ安心した。
「あ、そうですかーーー。
いやぁ~、懐が深くて助かりますよ! まるで聖女様だぁ!
……とりあえず、人が集まってきたし、立ち話もあれなのでここは一旦…」
と周りを見ると、俺の姿をみようと結構な数の人が集まり始めてしまっていた。
なのですぐさま場所を変えようとした時、見知らぬ少年が「これ!!!」と言って紙とペンを突き渡してきた。
「話の途中ですけど、ちょぉっとだけ待っててくださいね?」
と、少年に対応するために、こっちを見つめたまま待ってくれている彼女にそう断りを入れた。
「はあ…?」
と彼女からは何とも気の抜けた返事が返ってきた。
「どうしたんだくそがき。今あそんでる場合じゃないからな。散れ!!」
ガキを追い払うために俺は戦闘態勢に入った。
「のりたけ!!さいんくれ!!!」
と少年は反発するように、サインをねだってきた。
「サイン? サインか………。
いやでも紙切れなんかもらってもしょうがないだろ?
だからアウガルテンというS級冒険者から無料で握手とハグをして貰えるという権利を2000G(ゴールド)で売ってやるよ」
と言って、少年からペンと紙をかっさらうと『【期間限定無料ハグ券】 ※有効期限 1週間』と書いて手渡した。
「しゃあ!」
少年は狂喜乱舞しながら、俺に金を支払うこともなく走り去っていった。
「……。 そう、だから立ち話もあれなので…」
と俺は彼女の方に振り向くと、一度仕切り直して、さっき丁度良い居酒屋をみつけたのでそこに彼女を誘導しようとした。
この女の子は多分お金を沢山持ってそうだし、うまいこと言って飯を驕って貰うのだ。
「ノリタケ!!アレを、アレをくれい!!」
その瞬間、禿げたおじいさんが叫びながら俺にタックルをかましてきた。
もの凄い衝撃であった。
S級冒険者のこの俺が膝をつきそうになった。
「いってぇな!何すんだジジイ!!ぶっとばすぞ!」
「もう白い粉がきれたんじゃあ! 粉を!粉をくれえ!」
と子供のようにだだをこね始めた。
「ただの腰痛の薬だろうが!
ヤバい薬で老人を陥れてると思われるからその言い方はやめろ!
しかも日常的に悪質なタックルなんかしてるから腰を壊すんだろ!
薬ならアウガルテンに貰え!」
――――俺がそう叫んだ事を皮切りに、遂に市民達が暴れ始めた。
「ノリタケ! 家の支柱が折れそうだ!!!」
と出会ったこともない青年がゾンビのようにすがりよってきた。
「大工かアウガルテンに修理してもらえ!」
「親知らずの歯を抜きたい!」
見知らぬ少女が吠えた。
「アウガルテンに言え!」
『子供をあやして!』
泣きわめく赤ん坊を抱いている主婦が叫んだ。
「それもアウガルテン! てかお前がやれよ!」
「歌って踊ってぇ~~~~!!!」
と遠くの方から女性の金切り声が聞こえてきた。
「アウガ……。お前…言ったな?
それに関しては後でやるから絶対観に来いよ!!!」
コレに関しては譲れない物があったので、俺がやることにした。
――――似たような問答を市民達と延々と繰り広げていく内に、こちらが段々と疲弊してきた。
ゼエゼエと息切れを起こして、両膝に手を置いたが、未だにギャーギャーと市民達が喚いている。頭痛がしてきて、目眩がしそうだった。
「あーーもうお前等どっかいけ!!」
俺一人だったら簡単に逃げられるが、ここには貴族っぽいの美少女がいるので中々難しかった。
彼女の身体に触れて背負ったり、抱えて逃げようものなら、俺が国に訴えられるかもしれないのだ。恐らくわいせつ罪とか色々な罪がかぶせられるだろう。
更にじりじりと近寄ってくる大量の市民達を見て、冷や汗が流れた。
彼らは俺にガチで抵抗されたら敵わないことを知っているので、埋もれるほど近寄ってくることはないが、大通り一帯が通行止めになっているかのようだった。
このジリ貧状態に喘いでいたそのとき、一人の青年が壁になってくれた。
「くっ、ノリタケさんここは俺等に任せて逃げて下さい!」
気絶していたはずのC級冒険者アベルだった。
そしてなんとその声と共に、更に俺が殴り飛ばした後輩達が立ち上がって、民衆を抑え初めてくれたのだ。
「「行ってください!!」」
「礼は言わねえからな!!」
と俺は心に熱いものを感じながら「あの中に入りますよ!!」と、
何が何やらをわかっていない彼女の腕を引っ張って、一番近くのバーの中に逃げ込んだ。
……腕に触れるぐらいなら罪にはならないだろう。多分。
*
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