職業/クラス
『──そ、そういえば、お前は
「・・・くらす?なにそれ?」
『・・・は?』
少しの間を空けて、怪訝な表情が隠せないといった雰囲気でキマイラは続けた。
『冗談だろ?クラスはクラスだよ』
「・・・ぅん。でも、聞いたことないよ、そんなの」
『なんだと?』
少し考え込んだ末にキマイラが続けた。
『・・・軍神グランデウス。賢神イルミティ。母神マリアージェ。亜神キュリミテウス。聞き覚えはあるか?』
聞かれた言葉を頭の中で吟味する。
でも、ボクの記憶の中に該当する名前は存在しなかった。
「ううん、ないよ」
『ほぅ、なら次だ。──俺様に続いて言えよ?』
「わ、わかった」
有無を言わさぬ様子に頷きで答えると、キマイラが朗々と歌い上げるように言った。
『「我、神の加護を承らんと乞い願う者。我、自らの不足を嘆き、足掻く意思を捨てぬ者。我に新たな扉を開かれん事を願い、汝、賢神イルミティに祈りを捧げる」』
その瞬間に、ボクの前に光の板が現れた。
ギョッと身を固めたボクの前で、光の板にはズラリと文字列が並べられる。
**************
名前:百瀬ユウキ
種族名:キメラ
レベル:0
MP:3/55
・追加能力値
・スキル
A:自己再生Lv1、A:同化(使用不可)、B:偽装Lv1、B:擬態Lv1、C:咆哮Lv1、C:連続攻撃Lv1、C:怯み軽減Lv1、C:直感Lv1
・その他情報
同化中(解除不可)
・転職可能クラス一覧 New
・錬金術師
・賢者
**************
「こ、これってステータス!?っとなんか増えてる・・・?」
──転職可能クラス一覧。
さっきまでの普通のステータスにはなかった項目が増えている。
『ん。賢神の声は聞こえたか?』
「声?声は聞こえなかったけど、これ何?」
『あん?・・・まあいい。増えてるって言ったな。そこでクラスは選択できるか?』
スマホのようにスクロール出来るようになっていた。
指で下方向に動かして一つの名前を押せば反応する。
選ぶのはもちろん、一番最後にあった職業だ。
**************
『賢者』に転職しますか?
・Yes
・No
**************
「出来そうだよ」
『よし、賢者はあるか?』
「うん、いま選択してる」
『良いセンスだ。同化で獲れてたようだな、それを選べ』
ボクは迷わずにYesを押す。賢者だよ、賢者。絶対強い。
すると、見ていた画面が少し変化した。
**************
名前:百瀬ユウキ
種族名:キメラ
クラス:賢者 New
レベル:0
MP:3/55→75
・追加能力値
・スキル
A:自己再生Lv1、A:同化(使用不可)、B:偽装Lv1、B:擬態Lv1、C:咆哮Lv1、C:連続攻撃Lv1、C:怯み軽減Lv1、C:直感Lv1
・クラススキル New
S:鑑定 New、C:初級魔法 New
・その他情報
同化中(解除不可)
**************
MPや追加能力値が二つも増えたのもあるけど何より。
──クラススキル、というものが増えていた。
しかも。
「え?鑑定がSランク!?」
『賢者の鑑定は万能だからな。武器鑑定、防具鑑定、道具鑑定、人物鑑定、魔物鑑定、それら全てを含んでる。普通じゃ滅多に取れねえよ』
「そ、そうなんだ」
『・・・だが、どういう事だ?奴らの管理下にある世界ってのは違いないようだが、しかし名前すら知らんとは──』
ブツブツと呟き始めたキマイラを他所に、ボクもボクで考え続けていた。
──全く知らない神様らしき名前たち。
そして名前を呼んで祈りを捧げた際にステータスに現れた新たな項目。
これらが意味する事はなんだろうか。
ふと脳裏で繋がったのは、ダンジョンの存在。
──異世界との門、といわれている。
(あ。賢神とかって異世界の神様の名前、なのかな)
その表現はボクの中でしっくりときた。
(じゃあ、このキマイラも異世界の魔物・・・?ってそりゃそうか)
でも、言葉を理解する魔物なんて聞いた事がない。
もしかすれば民間には降りてこない情報があって、トップシークレットだったりするのだろうか。だとしたら、ボクが知ってると漏らしたらヤバい?
(この事は、内緒にしたほうが良さそう、かな)
幸いな事に、ダンジョンに行くという話をしたのはコトネだけだ。
そのコトネはダンジョンに全く興味がないから、ボクから話題にしなければきっと気にしないと思う。
ボクが思考にひと段落を付けた辺りで、キマイラも落ち着いたようだった。
『よし、ひとまずここから出るぞ。・・・確かめたい事がある』
「うん、わかった」
(確かめたい事ってなんだろう)
そう思いながら、ボクは何も言わずに出口に向かって歩き出した。
脱いだ服はもう一度着ている。
血塗れだけど着ないよりマシだ。
頑丈な鉄の扉を潜って、ふと振り返る。
太陽のように明るい照明に照らされる、正方形で区切られた部屋。
よく見れば、地面に何かの図形が書いてあるのがわかった。
(・・・魔法陣?)
『おい、行くぞ』
「あっ、うん」
少し後ろ髪を引かれながら、ボクは出口に向かって進んだ。
緑色のランプで照らされるおどろおどろしい通路を再び通って、ボクはダンジョンの出口である、青色の縦に長い楕円のワープゲートに触れる。
その時に、ポップアップが表示された。
**************
報酬を選択しますか?
(百瀬ユウキは該当ダンジョンに侵入不可となります)
・Yes
・No
**************
選ぶのはYes。
**************
希望のアイテムがあれば読み上げてください。
なければランダムとなります。
**************
「スキルポーション。良いやつ」
**************
伝説級スキルポーションが選択されました。
以上で報酬選択を終了します。ダンジョン制覇おめでとうございます。又のご利用お待ちしております。
**************
眩む視界。ぐにゃりと身体が捻じ曲がるような奇妙な感覚と共に、ボクは洞窟の入り口に戻ってきていた。
そして掌に何かを握っている感覚があった。
──ポーションだ。
暗がりなので見ずらいが、豪華な瓶に入っている黄色の液体がチャプチャプと揺れてる。
「お、おぉ。これがスキルポーション?」
『ああ、伝説級が手に入ったか。これはLv1からLv10まで一気に引き上げる事が出来る』
「一気にLv10!?」
『本当に偽装でいいのか、よくよく考えてから使う事だな?自己再生を選べば、まず死ぬ事がなくなるのだからな』
「ぐっ!それは魅力的・・・。そうだね、ちゃんと考えなきゃね」
割れないようにタオルでくるみ、リュックの中に大切にしまい込んで、改めてリュックを背負い直す。
「よし、帰ろう」
『・・・ああ』
空を見上げれば、真っ暗な夜空が広がっている。
懐中電灯を片手に持ちながらボクは帰路を進んだ。
「──何とか、見つからずに帰ってこれたね」
『・・・』
道中で気が付いたが、上着は血塗れ。ズボンも血塗れ。完全に見た目が事件である。田舎じゃなかったらヤバかったかもしれない。
いそいそと服を脱いで、ビニール袋に突っ込んでいく。
さすがにもう着ようという気にはなれないので、ちゃんと洗ってから処分しなければ。ゴミ捨て場から始まる事件簿はゴメンだ。
部屋着に着替えて、ボクはベッドに腰掛けながら一息を吐いた。
「よし。これでやっと一息つけるよ」
『・・・ああ、お疲れ』
「うん、ありがと。──ってめちゃくちゃ馴染んでるけど、それでいいの?」
『さぁな』
「まぁいっか。そうだ、君のことはなんて呼べば良いの?
「キマイラって名乗っただろが。適当に呼べ」
「じゃあ、マイラでいい?ちょっと女の子っぽいし」
『好きにしろ』
「ん。じゃあ、今日は疲れたから、もう寝るよ。おやすみ」
『ああ、おやすみ』
しばしの時間が経って、完全にユウキが寝静まったのを確認したキマイラ──マイラが、緊迫した様子で呟いた。
『ここは・・・どこだ・・・?』
寝静まった暗闇の中に、不安げな一言が溶けて消えた。
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