目覚め
「──んッ」
どれくらい時間が経ったのだろう。
ぼんやりとしながら、今ボクがうつ伏せになっている事はわかった。
咄嗟に起きなければと思って両腕に力を入れて起き上がってみれば、パリパリと乾いた血が剥がれる音が聞こえた。
(そっか、あれからまた気を失って・・・)
考えながら地面の血に触れてみた。
──気を失う前は暖かった血も、既に冷えて乾いて固まっていた。
周囲を見渡してみる。
場所は変わらずのようだ。
太陽のように明るい照明が照らしている、正方形に区切られた広間が広がっている。
見る限りではあるけど、特にアイテムなどが落ちている様子はない。
ボクがこの広間に入ってきた開きっぱなしの扉以外に通路もなさそうだ。
──少し期待していた、魔道具なんかのアイテムの気配もない。
「・・・ハズレ、かな?」
『だーれがハズレだ』
「うわぁ!?」
慌ててその場を飛び去るが、周囲を見渡しても姿は見えない。
募った焦りのままに吠えようとして、ふと思い出した。
「って。もしかして、キマイラ?」
『あん?それ以外に誰がいる』
答えるように脳内に響く声。
記憶を辿れば、息も絶え絶えだった時に──。
『お前に死なれたら困るってんで、童貞野郎なんざと無理やりに『同化』したのが間違いだったぜ』
ちょっと思い出したくない指摘も思い出してしまったけど、うん。
「同化したって言ってたね」
『ああ、そうだ。・・・なんだ、忘れてたのか?』
「わ、忘れてないよ?」
『・・・ならいい』
同化。
名前的にもキマイラの発言を思い出しても、ボクとキマイラを融合させる、みたいな意味だと思う。
(待てよ。融合って事は、ボクの身体のどこかにキマイラの顔が付いてたりしないよね・・・?)
ちょっと焦りながら掌を見つめたり、お腹を触ってみたりするが、変な顔だったりは特に付いてなさそうだ。
正直少しほっとした。
だけど。
その流れで自分の胸元を触った時、というより、貫かれて空いた上着の穴から胸元を覗いだ時に思わずギョッとした。
慌てて服を脱げば、胸の中心から十字に伸びる傷跡があった。
恐らくは胸を貫かれた時の傷。でも、気になったのはそこじゃない。
──治り方が異常だった。
「なに、これ。溶接した跡みたいな・・・」
『俺様の自己再生スキルが完全に機能してれば、そんな傷は残らなかったんだがな。だから、俺様のせいじゃねえぜ』
「か、『完全に機能していれば』ってどういうこと?今は機能してるんだよね?」
『いや?どうやら不完全な同化になっちまったみたいでな。今もスキルやステータスが軒並み下がってやがる」
キマイラの言葉を聞き、ボクは驚きを隠せなかった。
今の常識ではスキルやステータスは人間だけのものだ。
魔物も持っているかもしれないという話はあるけれど、魔物と会話出来るわけもないからあくまで可能性として、魔物もスキルやステータスを持っているかもしれない、という程度の話でしかない。でも、キマイラの言い方で確信した。
「──やっぱり、魔物にもスキルやステータスはあるんだね。ってキマイラは魔物、でいいんだよね?」
『当たり前だろうが。それ以外の何に見える?』
「い、いや。だって、初めて会った時は人の姿だったし」
『ありゃ人化ってスキルだよ。ま、不完全な同化でもう消えちまったスキルだがな』
ぼんやりとボクの脳裏に、美しかったキマイラの姿が浮かんだ。
あれがもう見れないなんて少し残念なような気がしなくもないが、話を進める。
「ステータスってボクでも見れるの?」
『見れるぞ、やってみろ』
「う、うん。──ステータス」
**************
名前:百瀬ユウキ
種族名:キメラ
レベル:0
MP:3/55
・追加能力値
・スキル
A:自己再生Lv1、A:同化(使用不可)、B:偽装Lv1、B:擬態Lv1、C:咆哮Lv1、C:連続攻撃Lv1、C:怯み軽減Lv1、C:直感Lv1
・その他情報
同化中(解除不可)
**************
「ほんとだ・・・。って
──追加能力値。
ステータスとも呼ばれるが、これは多ければ多いほど有利だと言われている。
低レベルの内は
『レベル0じゃ、普通はステータスなんざ見れんが。俺様と同化するっていうイレギュラーが可能にしたんだろ』
うんうんと頷いて聞きながら、ボクはある箇所を見つけてギョッとした。
「って!?種族名がキメラになってるんだけど!?」
『俺様の種族名だな』
「なんて事してくれてるのさ!?」
『アハハ!バレたらお尋ね者だな!』
「笑い事じゃないよ!?冒険者になれないかも・・・」
冒険者登録時にはステータスを見せる必要があるのだ。
そんな焦りを見せるボクに、ニヤリと笑ったような雰囲気でキマイラが言った。
『偽装スキルが残っててよかったな。偽装を育てれば、種族名を多種族に偽装したり、数値を誤魔化したり出来る』
「お、おぉ!じゃあ、ステータスを見せる時だけ偽装すれば・・・!」
『ま、スキルLv5以上が必要だがな』
「・・・ですよね」
ガックシとボクは肩を落とした。
──スキルにはレベルがある。
スキルの能力が向上すると数値が変動し、スキルLv1からLv10まで育てる事が出来る。スキル自体はレベルアップ時にランダム取得だが(一定の基準や法則があったりはする)、一度取得した後は鍛える事でLvを上昇させる事が出来るのだ。
希少度に応じてSランクからFランクまでのランク制度がある。スキル名の前に付いているのがランクだ。
「スキルレベルを簡単に上げる方法って知らない?」
『知ってるぞ』
「知るわけないよね。──って知ってるの!?」
『スキルポーションを使えば良い。俺様を倒した報酬として選択すれば、ダンジョンから出る時に貰える筈だ。代わりにこのダンジョンには二度と侵入出来んくなるがな』
「そういう事は早く教えてよ!?よかったぁ、これで何とか冒険者にはなれそうだね」
『ま、倒したとは正確には言えんから、貰えるかわからんがな。レベルアップもしていないようだし』
「そ、そういえば、レベル0のままじゃん・・・。さっきから思ったんだけどさ、上げてから落としてるよね?」
ジトリとキマイラを睨むつもりで虚空を見つめれば、アハハと笑い声が返ってきた。
『バレたか。ま、これから仲良くやろーぜ』
「釈然としないけど・・・。うん、よろしくね」
血とか肉とか臓物とか、恐ろしい事を言っていたから少し身構えてたけど、これなら上手くやっていけそうだとボクは思った。
その裏で、キマイラがどう考えてるかも知らずに。
(くっくっく、バカめ。油断させるために、協力的に装ったに決まってんだろーが。・・・しかし、俺様の攻撃スキルの大半が消えちまったのは痛いな。これじゃ乗っ取り返したってマトモに戦えやしねえ)
その刹那。
呑気に考えていたボクの脳裏にピキーンと何かが走った。
「──ん?何だか、いま不穏な気配が・・・」
『あ、アハハ!!な、何のことだ?』
「気のせい、かな?」
『ああ!ああ!!そうさ!!気のせいさ!!──そ、そういえば、お前は
「・・・くらす?なにそれ?」
『・・・は?』
ボクたちの間で、変な間が生まれた。
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