始まり



 血溜まりの中で、ボクは喘ぐように口を開閉した。口の中に溜まった血を吐き出しながら、奥歯を噛み締めて、自分の中身を睨みつける気持ちで虚空を睨んだ。


「思い、出した・・・ッ」


『はん、勝手に意識を失いやがって。お前に死なれたら困るってんで、童貞野郎なんざと無理やりに同化したのが間違いだったぜ』


「ぐっ・・・。なんで、ボクは生きてるの・・・?」


 ボクは、間違いなく胸を貫かれた筈だ。滴る血も、胸を貫いた腕の感触も、全部覚えてる。

 だけど、抑える胸元に傷はない。苦しさはある。口の中の血が現実だと物語ってる。でも、あれほどの致命傷を受けたなら意識が戻る前に死んでしまう筈なのに、どうして。


『言っただろ、同化だよ、同化。キマイラってのは色々と掛け合わせて作られる。俺様の場合は、バイコーンやら吸血鬼やら獣王やら、色々と組み合わせられたもんでな。生命力に関しちゃ他の追随を許さねえ。それこそ胸を貫かれた程度じゃ死なないくらいにな』


「なんで、バイコーン・・・?」


『聞くとこがそこかァ!?──確か、『ピーーー』な美少女がご主人様だけに『ピーーー』とか最高!・・・とか言ってたから趣味だろ』


「ぐっ!!悔しいけど、ちょっと気持ちがわかる・・・!」


『きめェな、死ね』


「今は冗談にならないよ・・・!?」


『・・・結果から言うとだ。チッ、お前の身体の主導権は、お前のもんだ。あれから何年経ったのかわからんが、久しぶりの人間だからな。ここで死なれちゃ次がいつになるか。──焦ったのが運の尽きだぜ。こうなるくらいなら、冷静にお前を見殺しにして次を待つべきだった・・・!』


「へ、へへ。ざまぁみろ・・・!」


『ケッ!あのタイミングで、人化さえ解除されなけりゃなァ。幸運に感謝しやがれ。んで、感謝ついでに身体の主導権をよこせ』


「・・・」


『チッ、また気絶しやがって。・・・まだ同化が完全に終わってねえからか?自己再生に時間が掛かってやがる。それまで死ぬんじゃねーぞ。お前が死んだら、このままじゃ俺様まで死ぬんだ』


 その声を、揺蕩う意識の中で子守唄のように聞きながら、ボクの意識は再び溶けていった。


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