ルリハの昔話

目が覚めると床に倒れていた。肉塊のおかげで柔らかい床。染み出した粘液は妙に甘い匂いがしている。

「ところでお主、儂が一体何者か、本当のところを知りたくないか?」

「本当のところ? ルリハって神じゃないの?」

 ルリハは視線を落とした。

「儂はお主ら、ヒトという種族の間では神と呼ばれている。じゃが、本当は違う。儂は、万能の神でない。単なる生き物じゃ」

「神でない……?」

「だったら教えてやるぞ。ジジイのたわけた昔話だと思って聴いてくれ」

 ルリハは一息ついた。



「儂らは自分たちを『光明こうみょう』と呼んでいる。この宇宙の外からやってきた。光明が最初にこの星に住み着いたのは三千年前。お主ら人間には、なぜか光明が神聖な存在に視えるらしい。地上で放浪していてあちこちで神と崇められた。儂らを巡って、戦争が起きた。ヒトが何百万も殺し合った。千年前、儂がやって来た時は、すでに同胞はほとんど死に絶えていた。みんな、絶望して死んでいったらしい。儂もすぐ絶望して、この石室に引きこもった」

 ルリハの視線はじっと下を見つめていた。

「ワシだけ、なんでか生き残ってしまってる。ヒトが嫌いなのじゃ。本当の姿なんてただの肉の塊なのに、みんなワシを聖なる神として崇めている。燕矢の人間だけは、儂の本当の姿が少しだけわかるらしい。だからこそ、お主しか頼れんのじゃ」

 ルリハが抱きついてきた。腰にまわした腕は、意外に細い。

「儂の孤独も、癒してくれ」

 ルリハはうずくまると泣きだした。清秋は、真人への後ろめたさを感じたが、ルリハを優しく抱き返した。

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