ルリハと呼んでくれ
「長ったらしい名前で呼ばれるのは嫌じゃ。儂のことはルリハと呼んでくれ」
「ルリハ……?」
「そっちのほうがカッコイイじゃろ。本名はかたっくるしくて仕方ない」
神、改めルリハは、乱れた襟を直しながら微笑んだ。口から鮫のように鋭い歯が見える。
ふと冷静になった。いや待て。初対面の人の唇を奪うヤツがどこにいる。急に怒りが湧いてきた。ふざけんなと思った。
「ああ、わかった。ご希望通り。ルリハと呼んでやる。だがな、いきなりキスするなんて犯罪だぞ!」
ルリハはキョトンとした顔をしていた。
「え、ダメなのか?」
マジで理解していないらしい。
「ダメに決まってるだろ!」
「儂によろめかないヒトなどおらぬはずじゃが、はて……」
首をひねる姿すら神々しく見える。憎たらしい。痴漢で訴えたいが相手は神であって、人ではない。警察に通報したところで、相手にされないことぐらいわかる。
「少しぐらい俺の気持ちも考えろ。元カレとそっくりだ!」
顔を背ける。
「そんなにひどいことはしていないぞ? 大袈裟じゃのう」
「カンケーねえわ」
元カレは強引だった。幼なじみで、最近まで付き合っていた。デートのときも常に強気。そして最悪なことに、元カレとは今も毎日顔を合わせないといけない。
「なんでじゃが知らぬが、とても妬いてしまった」
さらに触手が伸びてきて胸元をまさぐってきた。
「い、いや、やめろ!」
粘液の滲み出る触手が胸をたやすく滑る。こそばゆい。
ルリハは突然顔を近づけた。
「お主は儂がしっかり管理してやらねばな。また来るがよい」
ルリハの顔は無邪気なようでいて、微かに狂気が滲み出ていた。ふと、目の前が暗転した。どっと疲労が押し寄せ、視界は暗闇に包まれた。
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