第17話

身体に何かが触れているのを感じて


遠のいていた意識が戻る。


サトシが


湯で絞った暖かいタオルで俺を拭いてくれていた。



「・・・・・自分で・・・。」



そう言いかけると



「いいから・・・そのままにしてて・・・。


おまえの身体が、綺麗だから。」



俺はこんな無防備にだらしなくサトシの前で


横たわっていることが


なんだかとても幸せな気がした・・・・。


こんな素直な俺・・・・子供の時以来だ・・・。



身体を拭いてもらいながら


昔からのいろいろな事が


思い出された。



ジュンとの思い出も


マサユキとの思い出も


ショウとの思い出も


一緒に過ごしたしあわせな時が頭の中に溢れて


切ない思い出を押し流した。



妻との思い出も


娘の事も



自分の中で


後悔ばかりしてたのが


嘘のように


楽しかった思い出が次々浮かんだ。



俺の人生は


悲しい人生だと思ってたけど


実は


幸せなことが沢山あったんだなぁ・・・・・。



サトシが俺を愛してくれたから



俺の中の隙間がサトシで満たされ


俺の隙間の奥底に追いやられた


幸せの思い出がまるで呼び水のように


次から次へと解き放たれた。



俺の身体をきれいに整えて


毛布を掛けて


サトシも


一緒の毛布に入った。



ベッドから


桜が見える。


絵の俺が見える。


そしてサイドテーブルに


ちいさな額が置いてあるのに気が付いた。



サトシがその額をすっと手に取り


俺にみせた。



これは


俺が



中3の時


サトシに出した年賀状。


俺は毎年年賀状を書いていたけど


これが最後の年賀状だった。



「これ、縦読みだろ?サトシダイスキ・・・。」


    寒い日が続きますね。

    年越しそばは食べましたか?

    宿題もそこそこに

    大胆にもさとを描いてみようと思いがんばりました。

    いったい何点くれるのか!?

    すぐに採点してください!

    きっと高得点でしょう!


サトシが俺を見てにっこり笑う。


俺の年賀状を何十年も


額に入れて大切に


持っててくれたことが


驚きと共に嬉しかった。



サトシはこの部屋で


俺を想ってくれていたのか。


今、


俺が、


ここにいることを


サトシが嬉しく思ってくれたら俺も嬉しい。


幸せだと思ってくれたら俺も幸せだ。



俺は今こんなに幸せに満ち溢れている・・・・。


この気持ち・・・本当に久しぶりのような気がする。


それは


生きる希望。


サトシは


俺に


幸せと


希望を与えてくれた。



サトシのぬくもりを感じながら


俺は言った。



「俺・・・明日帰るね。」



サトシは驚きもせず引き留めもせず静かに



「そうか・・・。」



と言った。



少しの沈黙の後



「また・・・」


「また・・・・」



2人が同時に話しかけ


2人で顔を見合わせた。




「サトシ何?」


俺が聞くと


「カズヤ、どうぞ・・・。」


とサトシが言う。



「また・・・桜の頃に来てもいいかな?」



「ああ、来てくれ。


また来てくれ、今そう言おうと思った。」



「年賀状も出すよ。」



「ああ、楽しみにしてる。郵便局留めだから


読むのは少し遅れるかもしれないけど・・・。」



「採点する?」



「おまえが絵を描いてくれたらするよ。」



俺たちは


ふたりより添いながら


時々


ぽつりぽつりと会話を交わし


そして


幸せをかみしめながら


眠った。

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