第16話
部屋に入り
ランタンが灯された。
さっきの雑然としたアトリエから
一変してとてもシンプルなサトシの寝室。
大きなベッドとサイドテーブルと薪ストーブ。
チェストと昔ながらの洋服ダンス。
だけど
アトリエと同じ大きな掃き出し窓からは
桜の木が見えた。
桜が
大きなキャンパスに描かれた絵画のように見えた。
壁に
小さな絵がニ枚掛けられている。
一枚は
ここに来ることとなった運命の絵、
ソファに横たわる抽象画の俺。
そしてもう一枚は
これは・・・
あの時の・・・・
中学の時
サトシが俺をスケッチした絵・・・
抽象画の元となった
彼の家のリビングの
ソファに横たわる中学生の俺。
あの時は鉛筆で書かれただけだと思ったけど
絵の具で着色してあった。
紫のソファと
白いシャツの俺。
少年の頃の初々しい俺が
優しいまなざしで幸せそうにこちらを見る。
これは
あの時
サトシに向けた俺の表情。
俺はあの時
サトシのモデルをすることが
とても楽しくて
とても幸せな時間だった。
俺が絵を眺めていると
サトシが壁に近づいて
俺の顔をみて静かに
中学生の俺の絵を外した。
絵を外した壁に
フレームにも何も入らずただ壁に張り付けられている絵が
出てきた。
それは・・・・。
ソファに横たわる
裸体の
俺・・・・。
同じ構図の絵が3枚・・・。
シャツの俺
裸の俺
抽象化された俺
これは・・・・。
「卒業式の日・・・・
おまえと抱き合っただろ・・・・
あの時のおまえを描いてみた・・・。
あの後すぐに・・・。」
一回だけ
サトシと戯れたあの日
俺たちはただ裸で抱き合って
まだセックスとかよくわからなくて
それでもサトシと一体に慣れたような気がした幼い日
「ゴヤ・・・って画家がいて
『裸のマハ』っていう作品があるんだけど
その絵は『着衣のマハ』の絵で隠されていたんだ。
俺も、それを、真似た。
そして抽象画のカズナリはいつかカズナリが
気付いてくれるよう
個展に展示しようと思って描いた。」
隠された裸の俺。
大勢の人の目に触れた抽象画の俺。
そして思い出のシャツの俺・・・・。
「服脱いで。」
サトシが言う。
「あの時、出来なかったことを
しよう・・・。」
サトシが近づいて
俺のスウエットを器用に脱がせ
自分のスウエットも脱ぎ捨てた。
サトシの身体の美しい筋肉が
ランタンの光を浴びて
美しい影を作る。
サトシが俺を抱きしめ
肩や首にキスを落とす。
「初めてじゃないだろ?男とするのだって?」
サトシがキスの合間に言う。
初めてじゃない・・・・
初めてじゃない。
初めての相手はジュンだった・・・・
マサユキとも・・・・
ショウとも・・・・
だけど俺は本当はサトシと愛し合いたかったと
いつも思い知らされて
自分の感情を封じ込めた。
その感情が
今
解き放たれる。
ランタンが消されて
俺たちは抱き合いながらベッドに倒れこむ。
月明かりに照らされる
サトシの美しい横顔。
サトシが上になると
長いサトシの髪が俺に触れる
それをかき上げる
サトシの美しい指
その指が
俺を撫でる。
何度もキスを浴び
何度も撫でられ
そして激しく・・・・。
サトシ、もっと俺を抱きしめて。
捕まえて
俺の感情を俺の身体を
サトシが好きだった
好きだった
好きだった
好きだった・・・
そして
俺を埋めて
俺の中の空洞を
サトシで埋めて
サトシでいっぱいにして。
心も体もあの頃に戻ったように
愛情と欲望と
全てが溢れ
燃え上がった。
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